『VALORANT』アグレッシブな「PRX」はどうやって作られるのか―台パン発動条件やJingggの兵役、smthの評価など気になることをalecksコーチに全部訊いてみた【インタビュー】

LOUD戦の手応えや、PRXのアグレッシブなスタイルの作り方、スミス(something)の評価など、今のPRXについて気になることを伺いました。

e-Sports インタビュー
『VALORANT』アグレッシブな「PRX」はどうやって作られるのか―台パン発動条件やJingggの兵役、smthの評価など気になることをalecksコーチに全部訊いてみた【インタビュー】
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VALORANT』の年間王者を決める国際大会「VALORANT Champions 2023」がアメリカ・ロサンゼルスで開催中。Pacificリーグ1位のPaper Rex(PRX)は、Upper Bracket Semifinalsでブラジル・LOUDにマップスコア2-1で勝利し、ベスト3入りを決めました。

PRXはPacificリーグの中盤で元日本のSengoku Gamingで活躍していたスミスことsomething選手が加入、勢いを強めただけでなく、6月のMasters Tokyoではsomething選手が不在のなかベスト3へ上り詰めるなど、Pacific地域における強力なチームとして名を馳せています。

今回は、LOUD戦の直後、チームのコーチであるalecksコーチにインタビューを実施。LOUD戦の手応えや、“Wゲーミング”と呼ばれるアグレッシブなプレイスタイルがどのように作られているのかや、Jinggg選手の兵役に関する話題、something選手の評価、今PRXが抱える問題などなど。さまざまなトピックを語っていただきました。

◆LOUDのロータスピックはほぼ“確信”していた

――勝利おめでとうございます。まずは試合の感想を教えてください。

alecks:LOUDは去年のChampionsで優勝しているハイレベルなチームです。そんな相手と戦えるのは大ごとなのでストレスはありましたが、もっと綺麗に心を保つべきでしたね。勝てたことは良かったと思います。

――とはいえ、2ndマップ:スプリットでは2-13と大きな差をつけられてしまいました。どんな要因があったと思いますか?

alecks:理由は明白で、まず選手たちのコミュニケーションです。普段の私たちは、何をすべきか何をしないべきか……意見を出し合って配置を工夫しています。ところが今回は、全員が「あれに注意しろ」「これに注意しろ」とばかり発言してしまい、“何をすべきか”をコールできていませんでした。その結果、選手たちはお互いの背中に隠れるようになってしまいましたね。LOUDのようなハイレベルな相手は、そういった弱点を見逃さず徹底的に攻めてきますので、残るのは敗北だけでした。

――LOUDに対しては、どのような対策を講じましたか?

alecks:前日と今日の朝に、LOUDの試合を全て見直して彼らのパターンを研究していました。そして、ロータスをピックしてくることをほぼ確信できていましたね。また、彼らがパールも準備しているとも予測し、スプリットをピックしました。しかし、蓋を開けてみればスプリットで大敗したので、次回からはパールをピックしようと思います(笑)

LOUDの試合を観た後は、本番が始まる1時間前に選手たちとゲームプランを話し合いました。私たちには温存していた戦術がたくさんあって、今回はそのいくつかを採用した形になります。そこまで準備したら、あとは試合本番でどうなるかを試すだけですね。

実況の岸大河さんも「PRX有利に見える」と指摘している

◆PRXのアグレッシブさの秘訣とは?

――実はこのインタビュー前、LOUDのSaadhak選手へお話を伺ったところ、「PRXは新しいプレイスタイルを見せてくれるので、戦っていて楽しい」とのことでした。コーチ目線で、PRXの強さはどこにあるとお考えですか?

alecks:僕を含めたチーム全体の意見ですが、何かが起きるのを待ち過ぎなプレイヤーが『VALORANT』には多過ぎると思っています。私たちはもっと素早いプレイを好み、例えば、敵のフェイドがホウントを使ったらリキャストの45秒以内に行動するようにしています。私たちは大きなゲームプランは使いません。小さなゲームプランをたくさん用意して、ひとつのプランを定めて、そのプランを実行しながらさらに次のプランを決めていきます。

――その姿勢は、どのように練習で培っていくのでしょうか。

alecks:練習ではなるべく、ひとつのプランだけを練習して新しいアイデアを生み出せるように努力しています。 Jason(f0rsakeN)がアイデアを出すことが多いですが、最近は選手全員が提案できるようになりました。彼らをクリエイティブにしようと努力し続けた結果だと思います。

そして、アイデアが生まれたらテストを繰り返して実用的か見極めていかねばなりません。使えそうなものは実戦に投入し、不要なものは一時的に“保存”しておきます。ここで保存しておいたアイデアは、新しいエージェントが追加されたときに組み合わせられるかを確認することもありますね。そうやって私たちは、他チームよりも早く新しい環境に適応しています。つまり、クリエイティブな面が私たちの強みですね。

――PRXは動きが速過ぎるため、優秀なスイッチャーですら追いつけないことがあります。そんななかで、選手たちはどのようにコミュニケーションを取っているのですか?

alecks:PRXの信念は、自分の前にいる選手がアグレッシブに攻めると信頼することにあり、だからこそ僕らはアグレッシブなのです。チームメイトが前に出ることを分かっていれば、実はそこまでコミュニケーションは必要ありません。ただ練習したことを実践するのみ。私たちの練習はふざけているようにも見えますが、実際はたくさんのことを学んでいます。

もし最初に飛び出す選手に他の選手が合わせられなければ、それに追い付くのは難しいですよね。だからこそ、お互いを信頼して最初の選手に合わせる。先程も言ったように、私たちはひとつのプランを実行しながら、別のプランを組み合わせています。基本的に最初に飛び込む選手がプランをコールしたら、他の選手はどう合わせれば良いのか瞬時に判断できます。全て練習済みですからね。とにかくたくさん練習するのが大切なんです。

◆f0rsakeNはキープレイヤー、でもKAY/Oはダメ

――ロータスではオーメン(mindfreak)とアストラ(f0rsakeN)を採用する珍しい構成でした。どんな経緯があったのでしょう。

alecks:以前にf0rsakeNがサイファーを使っていたとき、攻撃でも防衛でもあまり役に立てていないとこぼしていたんです。サイファーはカメラを確認しなければならないので、どうしても展開が遅くなってしまうと感じていたようです。そこでアストラを採用してみました。

――アストラの強みはどんなところにありますか?

alecks:アストラがいると、敵の侵攻に対する妨害がすぐにできます。「これは面白いことができるから、もっと面白くしよう」とアイデアが浮かんできましたね。全員でスモークを投げて、ヴァイパーのように制圧したり援護もできるようにしたりなど。

――さまざまな構成を実現するうえで鍵となるのは、やはりf0rsakeN選手ですか?

alecks:f0rsakeNですね。彼が一番アイデアを出せるし、どんなロールも高いレベルでこなし、私たちがやりたいことを全部実現してくれます。でも、KAY/Oだけはダメですね(笑)。何故かはわかりませんがKAY/Oは酷い。その点に目を瞑れば、f0rsakeNが一番重要なプレイヤーと言えますね。

◆気になるスミスの評価は「10点満点中7点」

――今大会ではMasters Tokyoと違って、something(スミス)がチームに加わっています。彼を改めてどのように評価しますか?

alecks:10点満点中7点といったところでしょうか。十分なプレイはしているけど、彼ならもっとできます。特に試合開始直後は改善の余地が大アリで、毎試合エンジンに火が点くまで長いんです。ナーバスになっているか、ゲームプランが合っていないのかもしれません。

――慣れない地での戦いは負担が多そうですね。

alecks:国際大会になると睡眠や体調管理など、肉体的にも精神的にも万全のルーティンを確立しないといけません。その点については以前、専属のスポーツ心理学者を雇って協力してもらったこともあります。しかし、その時はまだsomethingがチームにいませんでした。

今は私がスポーツ心理学者としての代役も務めています。somethingに対して、例えば仮眠の取り方や、適切な食事や試合前に摂っていいものなど、何を考えてどうルーティンを構築するか、ゆっくりと伝えているところです。将来的に彼がもっと良くなることは間違いありませんが、現状はギリギリという印象ですね。彼と1対1で話した時、彼は「試合が始まると震えてしまう」と話していたので、もっと国際大会で場数を踏まないといけません。

◆「Jingggは2024年シーズンをプレイしない」

――今回のChampionsをフルメンバーで戦っていくなかで、どのようなことを学べていますか?

alecks:現状、チームがこれまでになかった問題に直面していると認識しています。勝負に勝ちたいとこだわればこだわるほど、逆に勝てなくなると私は考えていて、というのも100%の力を出し切ろうとしたら力みすぎてプレイングが悪化してしまいます。だから選手たちには80%の力を出すように教えているんです。「勝つのに必要十分な力を発揮しよう」ということですね。

これまではその教えに従って勝ててきましたが、今は力を満足に発揮できない場面が増えているように見えます。これはおそらく選手たちがChampionsで優勝できるかもしれないと考えているからで、危ない兆候とも言えます。優勝に囚われると勝つことばかり考えてしまうけれど、PRXにとってその考えは間違いなんです。

――プレイヤーたちが力みすぎているんですね

alecks:Evil Geniusesのようにトラッシュトークからエネルギーを得るチームもいますが、PRXはハッピーで楽しく自信を持ってプレイするチームなんです。もし負けてしまっても、それもゲームの一部。でも実際は、Pacificに初のChampionsトロフィーを持ち帰りたいですし、Jingggが来年から軍役でこれが最後の大会になるので、彼と一緒にトロフィーを掲げたいと思っています。でも、そういった気持ちが全て間違った方向に作用しているのが現状なんですね。チームにこういった弱点があることを、今大会を通して学んだので要改善です。

――Jingggが軍役と仰りましたが、やはり彼はPRXを去るのでしょうか?

alecks:Jingggは今シーズンをもってPRXを去り、2024年シーズンには参加しません。私たちはなるべく早く彼を軍に送りたいと思っています。その分、退役するのも早くなりますからね。

◆台パンの裏にはどんな思いが隠されているのか

――今大会で注目しているプレイヤーやチームはいますか?

alecks:プレイヤーならaspasですね。彼と戦ったのは初めてでしたがすごかった……!Lessも2マップ目ではもうスーパーマンですね。あんなの見たことがありません。あとはDemon1も仕上がってきていて、ちょっと怖いくらいです。もちろんZmjjKKも調子がいいですよね。

チームとしてはLOUDが一番印象的です。本当に強い。FNATICとは一度も戦ったことがありません。他のChampions出場チームとはスクリムしたことがありますが、FNATICにはいつも断られているんです。彼らはLower Bracketにいるので厳しい戦いが続きそうですね。

――ところで、alecksコーチはコーチ席で台パンをしたり険しい表情をあらわにしている様子が話題を呼んでいますね。

alecks:(笑いながら)私が失望を見せるときは、決まって選手がルールを守らなかったときなんです。私たちは厳しい練習を繰り返し、絶対に従わねばならないルールを決めています。もし誰かがルールを破ったらプレイが崩壊してしまうんです。ときには変なルールに感じるかもしれませんが、絶対に従わないといけません。とはいえ、そのルール自体は複雑ではなくシンプルなので、覚えるのは簡単なはずなんです。

例えば、購入フェーズで何を買うか、どのようにクレジットを残すかを話すとしましょう。そこでもし選手たちが会話を忘れていたら、まず不味い予感がして、そのラウンドを落とすと我を忘れてしまいますね。

――では最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

alecks:日本語が話せなくてごめんなさい。Masters Tokyoでの応援は素晴らしかったです。ステージに向かうとき、客席の皆さんからエネルギーをもらえましたし、勝って欲しいという気持ちが伝わってきました。なんと言いましょうか、あんなに背中を押してもらえた気持ちになれたのは、人生で初めての体験で心が温まりました。日本チームがいなかった分、みんなのために優勝したかったですね。

また日本へ行って皆さんの応援に応えたいと思います。もしRed Bull(※11月に日本・両国国技館で行われる招待制トーナメント「Red Bull Home Ground」)が招待してくれたら行きたいですし、日本でトーナメントがあれば必ず参加したいですね。本当に応援ありがとうございます!

「日本で一番ポピュラーなポーズはなんだい?」としてくれたダブルピース。とても気さくな印象だ

PRXは8月25日午前4時(日本時間)、グランドファイナルへの出場をかけてEvil Geniuses(EG)と戦います。この対戦はMasters TokyoのLower Bracket Finalと同じであり、当時PRXはマップスコア2-3で敗北しています。something選手が合流した今、チームはEGを乗り越えることができるのか、そしてPacificチームとして初のChampionsトロフィーを掲げることができるのか、Wゲーミングの躍進に期待がかかります。

《Okano》
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東京在住ゲームメディアライター。プレイレポート・レビュー・コラム・イベント取材・インタビューなどを中心に、コンソールゲーム・PCゲーム・eスポーツについて書きます。好きなモノは『MGS2』と『BF3』と「Official髭男dism」。嫌いなものは湿気とマッチングアプリ。

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