プロゲーマーやゲームライターなど、本業ゲームクリエイターではないけれどゲーム業界に近い方がゲームを作ると一体どのようなものができるのでしょうか。常にプレイヤー目線に立ってゲームについて考えている職種ですから、もしかしたら純粋なゲームクリエイターとはまた違った視点の面白い作品ができあがるかもしれません。
しかしながら8月3日に早期アクセスが開始された対戦FPS『Project F』については、あまりうまくいっていると言えないかもしれません。本稿では、『レインボーシックス シージ』を4桁時間プレイした筆者が、基本プレイ無料で配信されている『Project F』のプレイレポートをお届けします。なお、記事は8月3日から4日の午後18時ころにかけて配信されていたバージョンのプレイを基にしているため、アップデートによって変わる可能性があります。
“マップ研究”を排したデザイン
本作は、プロゲーミングチーム“父ノ背中”で『レインボーシックス シージ(以下、シージ)』のプロゲーマーとして活躍し、現在もストリーマーとして活動しているけんきさんが監修するタクティカル対戦FPSです。
5対5のチームに分かれ、屋内を舞台に「モノリス」というオブジェクトをめぐって争います。防衛側はモノリスを守り、攻撃側はモノリスにハッキング装置を設置するという、いわゆる「爆弾ルール」が楽しめます。モノリスの位置は防衛側が自由に決められる代わりに、その位置は攻撃側も把握できるという形になっています。
従来のタクティカル対戦FPSは「どこから入れば効率的に攻められるか?」「どこを重点的に守れば相手に手間を掛けさせられるか?」といったマップ研究が重要であり、特に壁・床破壊システムのある『シージ』においてはそれが顕著でした。
しかし本作ではマップの自動生成によってそれを排し、固定マップの研究よりも早く新しいマップを理解して攻略法を考えることを重視したコンセプトになっています。『シージ』で活躍していたけんきさんらしい発想といえるでしょう。
なお本作は現在のところ、8月3日から2週間限定でのサービスを予定しています。これはゲームの運営に1ヶ月あたり300万円の費用がかかるためで、その費用がけんきさんの個人資金から支払われているためであるといいます。今回のシーズンの終了後、3ヶ月間のブラッシュアップ期間を確保するとのことで、実質的にオープンベータテスト的なリリースといえるでしょう。
挑戦的なコンセプトは、果たして……。
試合は、使用するキャラを選択するところから始まります。本作はヒーロー型のシューターであるため、それぞれのキャラが固有の能力を持っています。例えばルートというキャラは壁をハッキングして大きな穴を開けることができ、バラライカというキャラは近づくとダメージを受ける煙を発生させます。
加えて、『Counter-Strike』や『VALORANT』のような武器・装備の購入機能も備わっており、キル数や勝利数によって得られる金額が代わるため、良い成績を残すほど早く良い装備を整えることができます。
結論から言うと、現段階では正直本作のコンセプトは面白いものとは感じませんでした。自動生成されるマップでは、体験が画一的になってしまうからです。
本作の自動生成は「すでに用意された部屋の配置などをランダムに組み合わせる」という形式になっています。しかしこれは現在のところ、うまくいっていません。
入り口がひとつしかないような袋小路状態の部屋が生まれやすい割に、撃ち合いが多くなりやすいポイントもモノリス周りか吹き抜けに限定されるなど、どの試合でも似た体験になってしまっており、「この組み合わせは良い」と感じるシーンが発生しないのです。
現状のプレイヤーの理解度ではマップを覚えるのではなく「とりあえず突っ込んで戦う」というような場当たり的な戦い方が多く、“自動生成”というコンセプトのユニークさに対し、プレイヤーの行動が似通ってしまうゲームのつくりがネックとなり、体験の質が追いついていません。
能力をうまく使うようなセオリーができれば、この点はある程度解消される可能性はあります。しかし、壁を開ける能力や瞬間移動能力などマップ攻略の鍵となる能力を使おうとしても1試合で深められるマップへの理解度には限界があるので、「袋小路になっているところの壁を開けよう」「敵が近いから瞬間移動して裏をかこう」というような単純な戦略になりがち。あまり確立したセオリーを作ることは難しいように思います。
現在は初期版なのでこの点を強く指摘するつもりはありませんが、不具合の面はアップデートでの改善に期待したいです。クラッシュやEasy Anti-Cheatが原因と思われる起動できない不具合が散見されたほか、レティクルが合っているのに敵に弾が当たらない“弾抜け”もそれなりに発生します。
ゲーム側というよりはコミュニティ側の問題ですが、「萎え抜け」問題はかなり深刻です。1ラウンド負けただけで途中抜けしてしまうユーザーは非常に多く、試合が成り立たないことが多々あります。プレイヤーが抜ける度にラウンド開始時に30秒ほどの再復帰猶予期間が与えられますが、その分他のプレイヤーが待たなければならないのでテンポが悪くストレスが溜まります。
これは正直大手のゲームも永遠に抱える問題なので、解決は不可能でしょう。ペナルティや途中参加を付けるという手もあるかもしれませんが、現状では真面目にプレイしているユーザーが少なすぎるという点もあると思います。今後のアップデートにてゲームとしての基盤がしっかりとしてくれば自ずと真剣にプレイするユーザーが増えるかもしれません。
手厳しく書きましたが、『シージ』を始めとしたタクティカル対戦FPSの構造を根本から覆すような発想自体は面白いです。かなり課題が多い状態ではありますが、今後どれだけブラッシュアップできるかによって本作の運命が決まりそうです。
『Project F』は、PC(Steam)向けに基本プレイ無料で早期アクセス配信中です。現バージョンのサービスは2週間で終了してしまうため、読者の皆様も一度手にとってみてはいかがでしょうか。