『ストリートファイター6』で活躍中の、実況者であるアール氏、プロゲーマーのマゴ選手が、過去の動画配信中に不適切発言があったとして問題となっています。
格ゲー界隈が不適切発言で揺れる―プロゲーマー「マゴ」とキャスター「アール」が謝罪(インサイド)
『ストリートファイター6』は初心者でも簡単に操作できるモダンタイプを搭載して新規ユーザー獲得を目指し、2023年7月7日には販売本数が全世界200万本を突破。同日、プロゲーマーによる長期リーグ戦「ストリートファイターリーグ」が開幕となり、大いに盛り上がりを見せたその前日にこの問題が発覚したのです。
これをうけ、マゴ選手が所属するTOPANGAは厳重注意と指導を行ったことを発表したほか、アール氏はストリートファイターリーグ 1st STAGE 第1節の公式実況者を降板し、2人とも自身のTwitterや配信で謝罪することとなりました。その際、不適切発言の内容は具体的に言及されていませんが、アール氏は自閉症差別を助長する発言、マゴ氏は脳障害に関する問題発言があったとされています。
「自閉症か」「脳に障害出ちゃう」ストリートファイターのプロゲーミング業界で差別発言が問題に(Yahoo!ニュース)
筆者は昨年ストリートファイターリーグをほぼ全試合見るほど熱中し、すっかりファンになりました。自身でも格闘ゲームは中学生の頃から遊び、今も『ストリートファイター6』を楽しんでいます。一方で、娘が自閉症の診断を受けており、支援学級に通わせる父親でもあります。発達障害の子供たちやその親をたくさん知っていますし、また大人の発達障害の友人もいます。アール氏やマゴ選手を応援したいファンの気持ちと、差別発言に心を痛める人たちの気持ちの両方が分かる立場から、この問題を考えたいと思います。
◆実際に自閉症の人がいて、生きづらさを感じていることを知ってほしい
改めてアール氏の発言を確認したところ、自閉症の人に対して強い悪意を向けたものというよりは、無関心からくるものに感じられました。その場では軽い冗談のつもりだったように思いますし、彼の周りに、自閉症で生きづらさを感じている人がいれば、出てこなかった発言ではないでしょうか。
自閉症を含む発達障害の子が抱えやすい問題のひとつに、自己肯定感の喪失があります。そのため、発達障害による特徴を理由に否定されるような場面は極力避けるよう、親や学校、病院などが協力して子供達を守ろうとしています。
自閉症の娘は現在10歳で、支援学級に通っていますが、クラスの子と上手にお話ができない、なかなか友達ができないと悩んでいます。このぐらいの年齢になると、自分が自閉症といわれ、それがどういうことなのかに興味を持ち始めています。なんで自分が支援学級に通っているのか、疑問を口にすることもあります。そういう子が、もし自閉症を揶揄するような冗談を聞いたときに、どれほどのショックを受けるかということは、想像がつかない人も少なくないと思います。
◆ゲームは味方であって欲しい
彼女は格闘ゲームこそしないものの、ゲームは大好きで、YouTubeで実況動画を見る機会も増えてきました。しかし残念ながら、ゲームコミュニティには障害者を差別するような言葉を気軽に口にする文化がはびこっています。過去には『PUBG MOBILE』で活躍するSaRa選手が障害者を揶揄する発言で大きな問題になったこともありました。彼は、配信していると知らずに障害者差別を口にしています。
問題は「ライブ配信」にアリ?ゲームコミュニティが差別と決別するために考えるべきこと…(インサイド)
大好きなゲームをプレイする人たちが、障害を揶揄するような言葉をいとも簡単に使ってしまうことは、筆者の娘のような子供にとっては想像以上に残酷なことです。この件に関して、仲間内だったら許されるようなことでも、配信では気を付けなければいけない、というような指摘があります。しかし、本質はそうではありません。普段から差別的な言葉がコミュニティーに蔓延していること自体が問題なのです。
その問題が、ゲームの世界が社会に認知され、多くの人の関心をひき、ライブ配信で普段の姿を目にする機会を得たとき、顕在化したにすぎません。変えるべきは普段の行い、言動であるはずです。いたって当たり前のことをあえて言いますが、差別を口にするべきではありません。
◆健全化の機会に
アール氏はストリートファイターリーグ 1st STAGE 第1節の実況を降りることになりました。たくさんの注目が集まるイベントにおいて、責任のある立場として仕方がないと思いますが、個人的にはそのような処分自体を望みはしません。Twitchで配信されたアール氏の謝罪動画では、一切の言い訳もなく、反省の弁を述べ、口だけではなく今後の活動で示していきたいことを話していました。そうであれば、これを機会に、ゲームコミュニティに蔓延する差別の問題について見直してもらって、再出発して欲しいと強く願います。
『ストリートファイター6』が非常にいいスタートを切って盛り上がる中、問題発言が取り上げられたのは痛恨の出来事ですが、これを機会に差別と決別する機会と捉えることができるかもしれません。今、『ストリートファイター6』によって格闘ゲームを盛り上げる最高の機会がきたと感じるプロゲーマーや配信者の方々、その誰もが差別発言はまずいと思ったはずです。
多くのプレイヤーに影響力があるアール氏や、マゴ選手は、ぜひ今後も最前線で活躍し、差別発言を無くす側に回って欲しいと考えています。表舞台での振る舞いだけでなく、普段から、仲間や若手や、あるいは多くの一般プレイヤーに対しても伝えられることがたくさんあるでしょう。そんな時、炎上回避や言葉狩りではなく、実際に発達障害の人はいて、軽い気持ちで言ったことが傷つけることもあるという、当たり前のことを確認できる一助になればと思って、記事を執筆しました。
筆者としては、おふたりの謝罪や反省の言葉を信じて、今後も変わらず応援したいと思っています。アールさんの「いーってみましょー!」がまた聞ける日がそう遠くない未来に訪れることを願ってやみません。