5.ネットでの交流と家庭での利用ルールに関する考察
本項目では「ゲームを介して行われるネット上でのコミュニケーション」と、「家庭でのゲーム利用ルール」を見ていきます。本調査会はこれら2要因を扱う理由として、前者を「ゲーム障害疑いの重要なリスク要因の一つではないかと考えられるため」、後者を「ゲーム障害疑いを予防する重要な要因の一つではないかと考えらえるため」としました。
5-1 ネットでの交流に関する考察
「相手が誰であれ、少しでも誰かと一緒にネットでゲームをしている人(交流経験者)」の割合は、20歳以上が31.1%であるのに対し、20歳未満は51.9~65.2%となりました。
20歳未満のうち学校などで知り合った人との交流経験者は36.7~50.0%で、ネットで知り合った人との交流経験者は18.3~33.8%でした。ネットで知り合った人とゲームプレイに関係ない話をした経験者は小・中学生が13.8~19.3%で、15~17歳、18~19歳では25%程度となっています。
次に、IGDT-10によるゲーム障害疑いに関連する質問の得点を利用してネット上でのコミュニケーションとゲーム障害疑いの相関係数を算出したところ、20あるセルの半数以上で有意な相関を得られたほか、15~17歳の群における項目で「.451」という高い相関係数が確認されました。
これにより「ネット上でのコミュニケーションと障害疑いには関連性がある」と推測され、ゲーム障害疑い対策においては、ネット上でのコミュニケーションをリスク要因の一つとしてとらえ、重要な対策領域として注目する必要があるとしました。
なお、ICD-11を用いたゲーム障害疑い得点との関連においても、ほぼ同様の結果が得られたことのことです。
ネット上でのコミュニケーションとゲーム障害疑い得点(IGDT-10)の相関
小学生 | 中学生 | 15~17歳 (中学生をのぞく) | 18~19歳 | 20~59歳 | |
---|---|---|---|---|---|
1.ネットを通じて「誰か」と一緒にゲームをする | .236* | .224** | .414** | .220 | .298** |
2.【ネット以外で知り合った人】とネット上で一緒にゲームをしながら、オンラインで音声や文字での会話をする | .174 | .339** | .326** | .297** | .262** |
3.【ネットで知り合った人】とネット上で一緒にゲームをしながら、オンラインで音声や文字での会話をする | .196* | .180* | .451* | .239* | .276** |
4.【ネットで知り合った人】とのゲーム中のオンラインでの会話のうち、ゲームプレイに必要でない会話・おしゃべり | .163 | .201* | .350* | .140 | .263* |
※図中の「*」はp<.05、「**」はp<.01
5-2 家庭での利用ルールに関する考察
小・中学生に「ゲームをする時間について、家庭でルールや決まりはあるか」を訪ねたところ、小学生の74.3%が「ルールがある」と回答しました。ルールが設けられている家庭は学年が上がるごとに少なくなっていき、中学校3年生では42.5%となっています。
また、保護者がルールの決定に関わっているケース(保護者が決定、あるいは保護者と一緒に決定)は、小学生が95.1%、中学生が98.6%でした。保護者がルール決定に関わったケースが全学年で9割以上となっていることから、保護者に対して「家庭でのゲーム利用ルール設定」の啓発を進めることが引き続き重要であるとしました。
啓発する際は各家庭に合ったルールのヒントを示すことが必要で、ただプレイ時間の制限をするだけではなく、遊んでいい場所、遊んではいけない時間、個人情報の扱い、ネットで知り合った人との付き合い方など注意点は多岐にわたるので、その際は専門家の意見を参考するのがいいとしました。
ルールがある家庭のうち、ルールを「いつも、またはほとんど守っている」割合は小学生が72.8%、中学生は59.5%となっており、ルールを守らせるには現実的な内容に設定することが課題となります。
家庭内のゲーム利用ルールと小・中学生のみを対象としたゲーム障害疑い得点の相関は以下のようになりました。
家庭でのゲームルールと障害疑い得点の相関(ICDT-10)
家庭内のゲーム利用ルール | 小学生 | 中学生 |
---|---|---|
1.ゲームをする時間について、ルールや決まりはあるか | -.041 | .019 |
2.上記質問の「ルールや決まり」をどのくらい守っているか (ここの点数が高いほどルールを守らない) | .203 | .477** |
※図中の「**」はp<.01
上の図表より、ルールを守らない中学生とゲーム障害疑いに高い相関が見られました。「ルールを守らない程度が高いと、ゲーム障害の疑いも高くなる」ということになります。このことからも、守ることが難しいルールではなく、実効性がありつつも現実的なルールの設定が重要であることが示唆されていると今回の報告では意味づけられていました。なお、ICD-11については、家庭でのルールとゲーム障害疑いの間に相関は見られなかったとのことです。
6.委員長の坂元章氏によるまとめ
全国の10~59歳に対する無作為抽出調査によって得られた2,913名のデータを分析したところ、IGDT-10に関する障害疑いの発生率は海外の先行研究よりやや低く、国内の研究とは同程度でした。ICD-11に関する調査結果は国内の先行研究より低い結果になったものの、その差異は前述したような尺度内容の違いに起因するところが大きいと考察されます。
いずれにせよ今回の調査で得られた「小・中学生で2%程度、全体で1%弱」というゲーム障害疑い率は無視できる数値ではなく、坂元氏は「ゲーム障害への対策は求められるものである」と結論。調査で得られたゲームのプレイ時間、ネットコミュニケーション、ゲームの利用ルールになどについての多様な結果が、その対策に活かされることを期待するとしました。
また、今回の発表は速報的な中間発表であり、本調査の最終的な報告書は2022年度末頃に発表予定です。最終報告書では、今回の報告データとは別に収集している子供のみ3,000名に対する調査や、学校抽出調査の結果報告をはじめ、縦断調査(時間間隔をおいて、同一の対象者に対して同一の調査を追跡的に行う調査)を行うことで「長時間のゲームプレイが障害疑いを引き起こす」のか、「障害疑いが長時間のゲームプレイを引き起こす」のかの因果関係をある程度推定できるようにするとのことです。