3.障害疑い率とその比較
本項目から、具体的な調査結果に言及していきます。先述した2つの尺度で算出された障害疑い率は、以下のようになりました。
IGDT-10尺度(研究会版)による障害疑い率
対象者 | 障害疑い率 | ビジネスユーザーを除外した障害疑い率 |
---|---|---|
子供票(10歳~中学3年生) | 1.9% | 1.6% |
大人票(高校生~59歳) | 0.8% | 0.7% |
回答者全体 | 0.9% | 0.8% |
ビジネスユーザーを除外した全体の障害疑い率は0.8%でしたが、子供(10歳~中学3年生)の疑い率は大人の2倍以上となっています。
国外のメタ解析・調査結果との比較:同程度かやや低い
Stevens氏らが2021年に行ったメタ解析(複数の調査結果の分析)では1.96%、Kim氏らが2022年に行た調査では2.4%でした。これらの調査では対象者の年齢幅の多くが12~18歳であるため、本調査も上記の結果から同年齢帯に限定して障害疑い率を算出したところ、1.7%となりました。国外のメタ解析・調査結果との比較は「同程度か、やや低い」と言えます。
国内の無作為抽出調査との比較:同程度~かなり低い
尾崎氏・金城氏が2020年に行った調査では、10歳代男子が2~3%、女子が1%前後でした。本調査も10~19歳に限定して障害疑い率を算出したところ、男子が2.8%、女子が0.9%でした。ほぼ同程度であるといえます。
Higuchi氏らが上記とは異なる尺度で2021年に行った調査では、10~29歳男女が5.1%でした。本調査も同年齢帯に限定して算出した疑い率は1.6%で、こちらは大幅に低くなっています。しかし、これは本調査の尺度で必須とされる「顕著な機能障害」が、Higuchi氏らの調査では必須とされていないことによるものが大きいと考察されています。
本項目のまとめ
ICD-11尺度(研究会版)を用いた調査では、何らかの疑いに該当する半数以上は「明白な依存症状を伴っていない」とされました。何らかの機能障害を生じさせた例に関しては「過度のゲームプレイにより、固有の問題(ゲームと直接関連しない、その人が本来有している特性や障害など)の発現を促したと考えられる」としました。
また、IGDT-10尺度(研究会版)では該当群の3分の2が顕著な機能障害を生じておらず、ゲームに関する依存症状がそろったゲームユーザーであっても明白な重篤性を有しているとは限らず、介入すべきポイントは上記「固有の問題」にあるかもしれないと考察されました。
4.ゲームプレイ時間と利用金額に関する考察
4-1 ゲームプレイ時間に関する調査
直近の1年間にゲームをプレイした人は小・中学生が94%(n=245)、15~17歳(中学生はのぞく)が90%(n=112)、18~19歳が83%(n=77)と高い数値になりました。20~59歳も68%(n=1,663)となっています。本項目では、このゲーム利用者のみを対象に考察します。
この年齢区分は「一般的に子供・未成年はメディアの影響を受けやすい」ことと、「2022年4月から未成年の定義が18歳未満に変更になった」ことによるものです。ただし、調査時点では未成年の定義がまだ20歳未満であったことから、双方が分けて提示されています。
上記の層に週あたりのゲームプレイ日数とプレイ時間を掛け合わせて算出した、1週間のゲームプレイ時間は以下のようになりました。
1週間のゲームプレイ時間の平均値と標準偏差
小学生 (106人) | 中学生 (128人) | 15~17歳 (106人) | 18~19歳 (71人) | 20~59歳 (1,578人) | |
---|---|---|---|---|---|
平均値 | 11時間36分 | 9時間28分 | 10時間29分 | 10時間31分 | 7時間36分 |
標準偏差 | 13時間40分 | 9時間10分 | 13時間24分 | 10時間46分 | 10時間31分 |
週平均のプレイ時間は20歳未満が9時間28分~11時間36分で、20歳以上は7時間36分でした。また、障害疑いの有無による差異を見たところ、一部の年代グループに差異が見られたものの、障害疑いの人数自体が少なかったため、統計的に意味のある差異に達しなかった可能性があるとのことです。
4-2 ゲーム利用金額に関する調査
15歳以上が、ゲームに費やした月ごとの金額(月平均利用金額)は以下のようになりました。
ゲームの月平均利用金額
15~19歳(181人) | 20~39歳(807人) | 40~59歳(798人) | |
---|---|---|---|
使っていない(0円) | 72% | 52% | 70% |
1~1,000円 | 17% | 18% | 15% |
1,001~5,000円 | 10% | 17% | 10% |
5,001~10,000円 | 1% | 6% | 3% |
10,001円以上 | 1% | 7% | 3% |
※ゲーム機本体やパソコンなど、機器類の購入に利用した金額は含まない
いずれの年代でもお金を「使っていない(0円)」が群を抜いて多く、お金を使っている人の中では「1~1,000円」が最も多く見られました。次に、ガチャの月平均利用金額は以下のようになりました。
ガチャの月平均利用金額
15~19歳(179人) | 20~39歳(791人) | 40~59歳(782人) | |
---|---|---|---|
使っていない(0円) | 87% | 77% | 90% |
1~1,000円 | 9% | 9% | 4% |
1,001~5,000円 | 4% | 7% | 3% |
5,001~10,000円 | 0% | 3% | 1% |
10,001円以上 | 0% | 5% | 1% |
月あたりでガチャに利用した金額も「使っていない(0円)」が最も多く、15~19歳でも月5,000円以内がほとんどでした。20~39歳では、5,000円以上利用した人が8%見られました。
本項目のまとめ
ゲーム障害疑いの該当者が少ないこともあり、ゲームプレイ時間平均値の比較では20~59歳に差が見られるのみでした。とはいえ、ゲーム障害の疑いがある人たちはプレイ時間が長い傾向にあるため、引き続き注視し、プレイ時間のコントロールをすることが重要であるとしています。
ゲーム平均利用金額とガチャ平均利用金額に関しては、ゲーム障害疑いの有無で統計的に意味のある違いはほとんど見出されませんでした。ただし、20~59歳のゲーム障害疑い該当者の利用金額がやや高めであったことから、ゲーム業界はユーザーがプレイ時間や利用金額をコントロールしやすくなるより一層の工夫が求められるとしました。
その一例としては「ゲームの1セッションを30分程度にする」、「その日のゲームプレイ時間や金額を区切りのよいところで表示する」、「プレイ前に前回のプレイ時間や使用金額を表示する」などが挙げられました。