「動画勢」という言葉があります。おそらくはゲームコミュニティ独特の言い回しだと思いますが、ゲームを実際には遊ばず、配信などの動画だけを観て楽しむ人を指します。格闘ゲームでは、その人がメインでプレイしているタイトルごとに『鉄拳』勢、『バーチャ』勢などと呼ぶ場合がありますが、それと同様に観覧を主体としている人を動画勢というんですね。eスポーツの観戦をする人たちの中には少なからず動画勢が含まれていますが、観覧する人の間で、稀には選手からも、動画勢に対して「観ているだけで分かったつもりになって発言しないで欲しい」というようなことが言われる場合があります。
なぜそのようなことがおこるのか、本当に動画で観るだけという行為はよくないのか、考えてみます。
■動画勢はなぜ嫌われる?
動画勢という言葉は、必ずしも格闘ゲームだけに使われる言葉ではありません。FPSなどの他のジャンルのeスポーツや、あるいはeスポーツではない1人用のゲームに関しても、実況配信などを観覧して、実際にはプレイしていない人を動画勢という場合があります。
動画で観覧していることそのものを非難されるケースは少なく、多くの場合は“知ったかぶり”をした発言に対して批判が集まります。実際、ほとんどのゲームにおいて観るのとやるのでは大違いですから、観ているだけの人の発言の中には、的外れになってしまう場合もあるでしょう。そういった人のふるまいを、ゲームをしているふりという意味で、エアプレイ、略してエアプと呼ぶ場合もあります。
確かに、自分が好きなゲームを、遊んでもいない人が動画で見ただけで批評めいたことを言っていたり、実際プレイもせずにeスポーツ選手のプレイに文句をつける人を見たら、少なからず腹が立つこともあるでしょう。
■普通のスポーツなら観戦者は大歓迎
しかし、もしこれが普通のスポーツだとしたらどうでしょうか。プロ野球や、プロサッカーをテレビで観戦している人は、みんな実際に野球やサッカーをしている人なんでしょうか。そんなことはないはずです。
さらに言えば、オリンピックなどの国際大会の中継はどうでしょうか。オリンピックなどでは、日本人選手が活躍すると、普段はマイナーな競技でも大きな注目を集めることがあります。この場合、観ている人の多くがその競技をやったことがない人ということになるでしょう。
これは動画勢という言い方に倣えば“テレビ勢”と言えるかもしれません。テレビ勢は嫌われる存在なのでしょうか? おそらくは逆ですよね。注目してもらって、観てくれたり、興味を持つ人が少しでも増えて欲しいですから、大歓迎なはずです。
ただしそれでも、やはり古くからのファンと軋轢が生まれる場合はあります。その時使われる言葉は“にわかファン”かもしれません。「にわかファンは黙ってろ」、という人はやはりいるでしょう。
■eスポーツが発展するには、裾野が広がっていくことが必要
eスポーツは、動画配信の時代に発展している競技です。なので、選手や運営する側だけでなく、観戦者も簡単に発信することができます。そこで、上記のように、競技の理解度による断絶がより顕在化しやすいのかもしれません。
ただし、多くの場合、分かっていない、知らないことそれ自体を咎めるような人はほとんどいないと思われます。結局のところ、プレイヤーや競技を貶めるような敬意を欠いた発言を指摘する際に、理由付けとして動画勢という言葉がついてきて断絶を煽るのではないでしょうか。
だとすれば、シンプルな話として“心無いヤジはやめよう”で良いはずです。そしてそこに動画勢とか、にわかだとか、新しく興味を持った人を遠ざけるレッテルを貼ることは、それが仮に事実だったとしても、そのゲームのファンを減らす行為に他ならないとして、戒めるべきではないでしょうか。
ゲームが盛り上がって、競技が発展していくためには、裾野が広がっていくことは絶対条件。心無いヤジはもちろん良くないですが、動画勢であっても、分かりやすく、安心して、楽しく試合観戦ができる環境が望まれます。せっかく同じゲームを好きになってみんなで盛り上がれるんですから、仲良くやりましょう。