0:00 赤い海からサイレンが響き、一つの村が消えた。
これは2003年11月6日に発売されたホラーゲームのパッケージ裏の文章です。そして当時、お茶の間でテレビをご覧になっていた方の中には、あまりにインパクトの強いCMを目の当たりにしてむしろ惹きつけられたゲーマーもおられるでしょう。筆者はバリバリの学生でしたが、あれから20年も経っているという事実に改めて恐怖しました。
というわけで今回は、今年で20周年を迎える国産ホラーゲーム『SIREN』、そしてこの作品を基点として始まった『SIREN』ゲームシリーズ3作品の気になる内容を振り返ります。
そもそも『SIREN』シリーズとは!?
本シリーズは、現在のソニー・インタラクティブエンタテインメントからリリースされてきたホラーアクション。日本の奥地にある閉鎖的な集落、海で隔てられた離島などを舞台に、怪異に巻き込まれた複数の登場人物の運命がザッピング的に絡み合い、やがて真相へと迫る群像劇です。
いまから20年前の2003年に第1作『SIREN』が発売。2006年に続編『SIREN2』、2008年には第1作を基にした『SIREN:New Translation』とゲームシリーズが続き、他にも実写映画、マンガなど幅広いメディアで作品が展開されました。海外PlayStation Storeでは、PS4向けにアップレンダリングされた『SIREN』も配信されています。
さらに、当時の出演者や開発スタッフが参加する“異界入り”というイベントも現実世界にて開催されています。また、20周年記念の今年は『SIREN』のリマスター盤サウンドトラックが各種音楽配信サービスで配信され、いまも本シリーズが熱狂的に支持されている揺るぎない証明といえるでしょう。
いま“そこ”にあるかもしれない日本ホラー
まず本シリーズ最大の特徴は、日本が舞台である点です。いわゆる“ジャパニーズホラー”作品であり、日本人として馴染みのある風景、小物の細部に至るまで徹底的に再現されたマップが身近な恐怖を演出。どことなく漂う昭和感、伝統的な日本家屋にある障子の引き戸や押し入れなど、単純な映像面のリアリティとは違う生々しさがあります。
登場する武器もバールやスコップ、そば包丁といった刃物・鈍器を中心に国内のホームセンターであらかた揃う品々。家の引き出しを開ければ軍用銃が飛び出してくる海外ゲームとは異なり、銃に関しても猟銃や回転式拳銃がせいぜい……なところも、日本らしいです。
ただ、自衛官が操作キャラクターに加わる『2』では、89式小銃など自動小銃の存在によって敵味方の立ち回りが大きく変化します。
そして何より、本シリーズでは不老不死の概念が作品のテーマでもあり、敵を倒しても復活するという事実がプレイヤーを精神的に追い詰めます。銃は強力ですが弾は少なく、最短距離で駆け抜けなければなりません。プレイヤーが置かれている不利な状況、システム上の故意な不便が恐怖を加速させる仕組みになっていました。
ストーリーを牽引するキャラクターたちも大半は一般人で、武器すら持たない状態で始まるのも心細いかぎり。それぞれ個性的な複数の人物を操作してシナリオをクリアし、その積み重ねと交錯によって構成される群像劇も本作を象徴する一部分です。お互いに名前も知らない人々の行動が巡り巡ってカギになるというのも、ひとつのゲームとして斬新、かつ時代を先取りした完成度の高い要素と言えます。
このような群像劇の形を取ることで特定の主人公が強くなりすぎるのを防ぎ、等身大のリアリティを維持しながら、生き残りをかけた戦いの中で誰が死に、誰が生存するのか分からないホラーゲームならではの面白さにも繋がっています。
そうしてひとり、またひとり……と人ではなくなっていく孤独感もまた本シリーズの醍醐味。最初からひとりぼっちならある意味で諦めもつきますが、大所帯から始まって出会いと別れを繰り返したりと恐怖の緩急をハッキリと突いてくる展開は、人間の心理を上手く突いているのかもしれません。
怖いし難しい!でも面白い“戦うホラー”の完成形
「第1作『SIREN』のテレビCMが怖すぎて放送中止になる」という、ホラーゲームとしてこれ以上ないエピソードも伝え聞く本シリーズですが、「難易度が高い」「ヒントが少なすぎて進行できない」といった指摘も多く見られます。しかし、それを補って余りある人気を不動としているのは、ホラーだけでなくアクションも妥協のない完成形であったことも大きな理由でしょう。
本シリーズでは“戦うホラー”として敵との戦闘はもちろん、“視界ジャック”と呼ばれる能力も使います。敵の視界や聞こえる音を盗み、攻略の手がかりを得てこっそり立ち回ったりと、他にはないシステムによって自由度の高いプレイが可能なのも大きな特徴です。
続編が出るごとに難易度変更やヒント表示、その他にも便利機能が追加されて格段に遊びやすくなり、特に『2』以降は倒した敵の武器を奪えるように。第1作では各キャラクターが指定の武器しか持てず、最初の武器を手に入れるまでは戦うことすら不可能でしたが、素手でも抵抗できるようになって攻略の幅が広がります。
加えて、本シリーズの代表的なシステムである視界ジャックの種類も増え、他人の視界を盗んだまま移動したり、敵を操ったりとアクション部分に重点を置いた改良によってゲーム性が目に見えて向上。
一方のホラー面でも『2』では闇人という新しい敵が登場し、PS3のハードスペックを遺憾なく発揮した『New Translation』はグラフィックだけでなく動きも滑らかになり、本能的に這いまわる敵の存在が一層グロテスクになっていました。
怖いはずなのに何度も繰り返し遊んでしまうのは、ゲーム性に優れるアクションの力も大きいですが、思わず引き込まれるホラーの深いストーリー性、それらが絶妙な割合で成り立っているホラーアクションだからこそ。その集大成として完璧に結実したものが『SIREN』シリーズなのです。
バトル要素を排した純粋なホラーを好むプレイヤーからすれば、議論の余地があるかもしれません。それでも、本シリーズが稀に見る傑作ホラーアクションであることは、革新的なゲームシステムの数々、20年という歳月を経ても色褪せない魅力が物語っています。
まさにプレステ絶対黄金期の隠れた大名作
ところで話は変わりますが、『SIREN』『SIREN2』の対応機種であるPS2の販売台数が2012年時点で1億5,500万台以上を記録し、世界で最も売れたゲーム機となっていました。いまは当たり前のマルチプラットフォーム展開などもなく、PlayStation Plusの「クラシックスカタログ」で配信されている『SIREN:New Translation』を除き、PS2実機を用意せねばこの2作品の日本語版をプレイすることはできません。
かつて一時代を築いたものの、深い眠りについていた往年の名作たちが掘り起こされて高画質化を施され、現世代機タイトルとしてリメイク・リマスターされる時流が起きているのは皆さんもご存知の通り。筆者を含むファンの気持ちとしては、15年以上も続報が途絶えている『SIREN』ゲームシリーズ続編とまではいかなくとも、この機会にリマスターされて再び世の中にその名を知らしめてほしいところです。
しかし、本シリーズを開発したSIE JAPANスタジオは2021年に再編。これまで多くの名作に携わってきた開発スタッフの大部分が退社という運びになり、そのニュースを知らされた筆者も呆然として引きこもったのを覚えています。
単純なリマスター版であれば、外部の開発会社でも制作は可能だとは思いますが、シリーズの遺志を受け継ぐ新しい続編展開は非常に困難でしょう。
しかし、本シリーズを手掛けた外山圭一郎氏の新作『野狗子: Slitterhead』が2021年に発表され、同氏がディレクターを務めた『サイレントヒル』シリーズ、『SIREN』シリーズと同じホラーゲームであることが明らかになりました。
この15年という長い間、どうしようもない喪失感に打ちのめされて狂ったように対人ゲームにのめり込んでいた筆者にも、ようやく救いが訪れた気分です。
公開されている映像は開発初期のものということで、いまのところ断片的な情報しか分かりませんが、そもそも『SIREN』も外山圭一郎氏が『サイレントヒル』や『夜明けのマリコ』の開発を経て辿り着いたもの。
今回の『野狗子』も本シリーズ、および『GRAVITY DAZE』などから得た経験をどのように昇華して、未だ誰も見たことのない新境地を切り開いていくのか。いちファンとして外山圭一郎氏、そして同氏の旗の下に集ったスタッフの活躍に心から期待しています。
スパくんのひとこと
知る人ぞ知る歴史的名作スパ!実機環境でしか遊べないのがネックだけれど、PS2持ってる人は絶対にプレイしてほしいスパね!出演者が大物すぎる点も注目だスパ!