インディーゲームが想定外のセールスを記録してしまった、ということは時折あります。
メンヘラ女性配信者と共に生活するアドベンチャーゲーム『NEEDY GIRL OVERDOSE』は、全世界で120万本のセールスを達成しています。この驚くべき売り上げは、どのような過程で成し遂げられたのか? CEDEC 2023にて、『NEEDY GIRL OVERDOSE』のプロモーションやマーケティングを担った株式会社リュウズオフィス代表取締役の小沼竜太氏が「インディーゲームが100万本売れるまで :『NEEDY GIRL OVERDOSE』の販売データから」というショートセッションを開催しました。
中国で大きな話題に
『NEEDY GIRL OVERDOSE』におけるリュウズオフィスの役割は「販売本数の最大化」と「パブリッシングサポートの提供」だったと小沼氏は語ります。
ここで言うパブリッシングサポートとは、日本のみならず北米、欧州、そして中国でのプロモーションやマーケティングも含まれます。
「2022年1月に発売された『NEEDY GIRL OVERDOSE』は、今の時点で120万本以上を売り上げています。このショートセッションをCEDECに申し込んだ時は100万本を超えたところだったのですが、それからさらに20万本以上を積み重ねました」
この売上の内訳を見てみると、何と中国のユーザーが5割を超えています。
「このグラフにある通り、50%以上が中国での販売です。当初は我々も予測していませんでした」
しかしこれは、結果が出るまで中国向けのプロモーションを怠っていたという意味ではありません。情報の初出から販売直後までのユーザーの反応を観察し、中国語圏への情報発信に注力する方針に転換した経緯があると小沼氏は語ります。
Steamの「ウィッシュリスト」
さて、Steamには「ウィッシュリスト」という機能があります。
これは気になったタイトルや購入予定のタイトルをブックマークのようにリスト化できる機能で、ゲーム配信者が累計のウィッシュリスト登録数を把握できる仕組みを有しています。多くの場合、Steamでの売上はウィッシュリスト登録数と連動するような伸びを示します。
発売間もない注目タイトルはとりあえずウィッシュリストに登録し、セールの時にそれを購入しよう……という意図で利用するユーザーも少なくないはず。
『NEEDY GIRL OVERDOSE』の初報から発売前日までのウィッシュリスト登録数は、日本が約2万、中国は約1万2,000でした。それが発売当日から翌日にかけて逆転してしまったといいます。
「発売1ヶ月後には中国のウィッシュリスト登録数が大きく伸び、日本の2倍以上にあたる14万件に達します」
この驚異的な現象は、Steamのみならず中国の動画投稿サイトBilibiliにも波及します。ゲーム主題歌『INTERNET OVERDOSE』の動画が、860万再生を記録しました。
独自セールも積極的に打ち出す
Steamでは、年4回の季節セールを開催しています。前述の通り、このタイミングで注目のタイトルを購入するという人も読者の中にもいらっしゃるのではないでしょうか。
『NEEDY GIRL OVERDOSE』は全ての季節セールに参加していますが、どのセールにおいても中国での販売本数が最多。特に今年のサマーセールでは50%割引ということもあり、合計で10万本以上を売り上げています。そのうちの約5万3,000本は中国から。
また、Steamの季節セールとは関係のない独自セールも実施。Switch版販売のタイミングでSteamでもセールを行うなどの販促企画を打ち出しています。
このように、Steamの季節セールと独自セールを組み合わせることにより多大な売上を達成した『NEEDY GIRL OVERDOSE』。販売本数のうち、53%がセール時に売り上げたものではありますが、一方で季節セールよりも独自セールの際の販売本数がより多かったとか。
独自セールは、それをユーザーに周知させなければなりません。従って、独自セール前のタイミングでYouTubeでの生配信を行ったり、日英中3言語で全世界同時配信を行う『INDIE Live Expo』での情報公開を行う等の施策も実施しています。
中国ユーザーの存在感
この講演から知ることができるのは、「中国ユーザーの存在感」です。
一度中国ユーザーの心を掴んでしまえば、日本とは比較にならないほどの人数が集まります。人口の違いを実感させられる出来事ですが、同時に「中国の風習」を知ることも重要のようです。たとえば『NEEDY GIRL OVERDOSE』では、中国の旧正月に合わせたセールも開催しています。
「インディーゲームは、最初から多言語に対応することは難しいと思います。しかし、タイトル発売後のユーザーの反応を観察することで必要な施策が見えてくることが多いのです」
インディーゲームをどう売ればいいのかという「誰しもが頭を抱える問題」に大きなヒントを与える、極めて有意義な講演でした。
【参考】