2022年10月27日、韓国のゲーム企業KRAFTONは『The Callisto Protocol』の日本向け販売を中止することを発表しました。その報せが一般ユーザーの元に届いた約12時間後には、エレクトロニック・アーツが2023年に発売予定であった『Dead Space』のSteamストアページが日本からアクセス不能となりました。
両作品ともに「SFホラー」に当たるジャンルであり、プレイヤーに強烈な印象を与えるゴア描写はゲームを彩る重要な演出です。しかし、その表現について『The Callisto Protocol』販売元のKRAFTONは「CEROレーティングを取得できず、ゲーム内容を変更すればプレイヤーの期待する体験を提供できない」として、日本での販売を断念することを告知。また、エレクトロニック・アーツからは『Dead Space』について「CERO審査中となっており、発売が決まっていない」「状況が整い次第、改めてご連絡できるだろう」と発表しました。
他にも度々ゲームの話題で上がるCERO。しかし我々メディアを含めた多くのゲーマーは、CEROの活動が具体的にどのようなものであるのか知りません。
そこでGame*Sparkは、CERO(特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構)にメールインタビューを実施。組織設立の経緯から現在のゲーム市場、一般ユーザーにとって不明瞭な活動内容について訊きました。
――CERO設立の経緯、団体の目的などについて、改めて教えてください。
CERO事務局 家庭用ゲーム機の技術の進歩やゲームユーザーの年齢層の拡大によって、ゲームソフトの表現や内容が多様化するにつれ、それらが青少年に与える影響への配慮が求められるようになりました。2002年6月、そうした社会的要請に応えるため、ゲームの業界団体であるコンピュータエンターテインメント協会(CESA)が主導する形で、ゲームソフトの年齢別レーティング制度を業界の自主規制として運用・実施する機関として本機構が発足しました。その後、2003年11月、東京都より特定非営利活動法人(NPO法人)として認証され今日に至っています。
本機構ではゲームソフトの年齢別レーティングを実施することにより、ユーザーや一般市民に対しゲームソフトの選択に必要な情報を提供し、青少年の健全な育成や社会の倫理水準の適正な維持を計ることを目的としています。
――審査は担当した審査員の裁量に任されているのでしょうか。また、審査員がレーティングを付ける際の明確な基準はあるのでしょうか。
CERO事務局 本機構では、専門の研修を修了済の熟練した審査員が審査基準に基づいて審査を行っており、個人の裁量や見解はほとんど入りません。
――CERO設立から比べると、昨今では販売・流通経路において大きなデジタル化が進んでいます。ゲーム市場の形も変わってきている中、審査基準は随時見直されているのでしょうか。
CERO事務局 ゲームの審査基準は社会の価値観や倫理水準の変遷に慎重に対応し、必要に応じて見直すべきものと考えます。なお、ゲームの販売方法の多様化などのゲーム市場の変化とゲームの表現内容の審査基準の間には、直接的な関連性は認識しておりません。
――近年はAmazonプライム・ビデオやNetflixなどの隆盛により、映画やアニメなど他の映像メディアに手軽にアクセスできるようになりました。それらのコンテンツと比べてCEROの審査基準に乖離がある現状について、どう考えていますか。
CERO事務局 一方的に視聴するのみの映像作品とは異なり、ゲームソフトはインタラクティブ性を有することから、その点を考慮した審査基準を設定し審査を行っております。
――海外のゲームが日本で販売される際、一部の表現が問題になり、日本版のみ修正が入るといった事態が生じています。特に人体の切断表現などには非常に厳しい審査が入るようですが、これはどういった理由からでしょうか。
CERO事務局 本機構の審査基準は会員であるゲーム会社各位の合意を得て設定され、業界自主規制として運用されています。また、国や地域によって法律や倫理水準、価値観などに違いがあるように、ゲームの表現内容についての受け止め方に差異が出ることは自然なことであり十分ありうると考えています。なお、数年前に本機構が行った社会の倫理水準に関する調査では、暴力表現についてはやや厳しい基準を求める傾向が示されております。
――「青少年の健全な成長を守るための規制」と「クリエイターの表現の自由」、さらに「クリエイターの表現を享受するユーザーの権利」は非常に難しいバランスで成り立っており、そのバランスをどうとるかもCEROの重大なミッションかと思います。現状、ユーザーにおいては「日本ではゲームが遊べない」「本来意図した表現でゲームをプレイできないため意味が通じない」といった問題が起こっていますが、どのようにお考えでしょうか。
CERO事務局 審査をご依頼いただいたゲーム会社が本機構の審査結果(レーティング)を踏まえてどのようなご対応をされるかについてはコメントする立場にございません。
年齢別レーティング制度は業界自主規制であり、昨年度は1800件を超える審査を行い、2500万人を超えるユーザーがそれらをプレイされています。今後ともユーザー、業界、一般市民の様々なご意見に耳を傾けながら運営してまいります。
――現在、主要なプラットフォームでのDL販売においてIARCを採用するケースが市場の一部で見られています。別の審査団体の基準が業界に並列して存在する状況にあることをどう考えていますか。事業報告においても検討が続けられているとのことですので、どのような調査結果があるのかもご教示ください。
CERO事務局 本機構はゲームの表現内容について審査する機関であり、各プラットフォーマーのご方針についてコメントする立場にございません。なお、IARCについては必要に応じて運営団体とコミュニケーションを行う姿勢で臨んでいます。
――“PC向けコンテンツと「それ以外」向けのコンテンツ”という二重規範下にあるゲーム業界の現状について、どう考えていますか。
CERO事務局 本機構はゲームの表現内容について審査する機関であり、ゲーム業界の動向についてコメントする立場にございません。
――海外のゲーム会社が、日本国内向けのコンソールパッケージの販売・流通確保のためのCERO審査に適合しなかった場合、当該タイトルPC版の日本向けの販売を販売ストア運営元の国内外を問わず停止するケースがあります。これは、各ゲーム会社が独自に判断しているものなのでしょうか。
CERO事務局 本機構はゲームの表現内容について審査する機関であり、審査をご依頼いただいたゲーム会社が審査結果(レーティング)を踏まえてどのようなご対応をされるかについてはコメントする立場にございません。本機構はゲーム会社の事業計画に関与する立場でもありませんし、そうした権限もございません。
――政府や行政からの要請に従い表現への規制を推進するだけであれば実質上の政府機関でしかありません。CEROは、そうならないようNPOとして求められる立ち位置・役割をどう考えているのでしょうか。
CERO事務局 本機構は業界自主規制である年齢別レーティング制度を実施する独立した機関です。ゲームの表現内容を規制する法律はなく、従って政府や行政からの要請や指導などは一切受けておりません。
――CEROは、現在のCERO審査下の表現がレーティングを問わず社会的に問題にならないよう、社会・政治的な活動を継続して実施されているのでしょうか。
CERO事務局 そのような活動はおこなっておりません。
――CEROは立場上、社会的な部分だけでなく常にゲーマーからの批判にも晒される位置にあります。審査基準に関して“なぜそれが表現されてはダメなのか”の理由の説明や、活動の効果の宣伝など、ゲーマーとのコミュニケーションをより密に行う施策は検討されていますか。また既にそうした活動の具体例があれば、ご教示ください。
CERO事務局 ゲームの表現内容については、同じシーン、同じ描写であってもその受け止めはそれぞれの方によりさまざまです。今後ともユーザーや保護者をはじめ社会の声を真摯にうけとめ、青少年の健全な育成と社会の倫理水準の適正な維持に寄与して参りたいと存じます。
――最後に、日本にいるゲーマーに向けてメッセージをお願いします。
CERO事務局 今回のご取材が皆様の本機構の活動に対するご理解の一助になれば幸いです。
なお、上記回答を受けたのち編集部から追加質問を投げかけようと試みたところ、これ以上の対応は業務に差し障りがあるとして回答を頂くことが叶いませんでした。Game*Sparkは今後も関係各所への取材を通し、表現規制にかかわる不透明な点を広く報じていく方針です。