任天堂は2021年3月から「パートナーシップ制度」を導入していることを発表しました。任天堂の公式サイトによると、法的には婚姻が結べていない同性のパートナーがいる社員について、任天堂の社内制度では婚姻と同じように扱うとしています。また、性的指向や性自認に関する差別、本人の了解を得ずに第3者に性的指向や性自認を公表する“アウティング”についても、社内規定で明確に禁止したことが書かれています。
CSR情報「社員一人ひとりが力を発揮できる環境づくりに努めます。」(任天堂公式サイト)
実は、任天堂のゲームは過去、性的に多様性のある表現を求めて、ユーザーから要望や、抗議を受け、ニュースになったことが何度かあります。またそういった要望や、社会的な価値観の変容に応えてか、ゲーム自体も変化している様子がうかがえます。
今回は、任天堂のゲームと性的マイノリティに関する事例を、当時の記事とともにご紹介したいと思います。
■同性婚はできなかった『トモダチコレクション 新生活』
自分で作ったMii達の生活を見守り楽しむニンテンドー3DS用タイトル『トモダチコレクション 新生活』には、結婚の要素がありますが、異性間のみで成立し、同性婚はできませんでした。これに対し、米国アリゾナ州の男性が同性婚ができるようにして欲しいと要望し、SNSなどで広く呼びかけられたことが報じられました。任天堂ハードにおけるアバターの役割を持つMiiでゲームを遊ぶことから、自分のMiiとパートナーのMiiが結婚できるようにしたい、という主旨です。
『トモダチコレクション 新生活』への同性婚対応を希望する要望運動に対し任天堂が回答(インサイド)
残念ながら男性の要望は受け入れられず、任天堂は『トモダチコレクション 新生活』は現実のシミュレートではなく、同性婚ができないことは社会的な主張を持たないと回答しました。しかし、ここで騒動は収まらず、この後任天堂は改めて、同性婚を本作に用意できないことを謝罪、ダウンロードによる追加パッチでは対応できないため、次回作での対応を努力する旨を約束しました。
任天堂、「トモダチコレクション」の同性婚問題で「次回作は努力」(ITmedia)
■異性、同性にかかわらず好きになれる『ミートピア』
『トモダチコレクション』シリーズの直接の続編ではありませんが、同じくMiiで遊べるRPGの『ミートピア』では、同性愛に関して改善が見られました。『ミートピア』には結婚の要素こそありませんが、「好きレベル」というパラメーターが存在し、一緒の部屋で過ごすなどで、Mii同士が仲良くなって様々な恩恵が得られます。この好きレベルに男女の区別はなく、例えば同性の2人でデートに出かけて、好きレベル上げる、というようなことも可能です。
『トモダチコレクション 新生活』での要望を踏まえた形と考えられますが、ロシアでは「同性愛宣伝禁止法」という法律があり、これに抵触するとして、18歳以上を対象としたソフトとしてレーティングされたことが報じられています。
「同性愛宣伝禁止法」によりロシアでは『ミートピア』を18歳以上対象に―過去には『Stardew Valley』なども(Game*Spark)
■“おとこのこ”と“おんなのこ”の差がほとんどない『あつまれ どうぶつの森』
『どうぶつの森』シリーズでは、最初に選んだ選択肢によって男性か女性かに分かれ、ゲーム内で多少の変化がありましたが、最新作『あつまれ どうぶつの森』ではかなりその差が解消されています。
例えば、ニンテンドー3DSで発売された『とびだせ どうぶつの森』では男性キャラが女性向けに設定された髪型にしたり、洋服を着たりした場合、店員が否定こそしないものの、やや驚くリアクションを見せていましたが、『あつまれ どうぶつの森』では髪型や服装が男性用か、女性用かで反応が変わることは無くなっていることがニュースになっています。そもそも、男性か女性かという設定は、ゲーム中いつでも変更可能です。
『あつまれ どうぶつの森』では、女装をしても店員から“驚かれない”(AUTOMATON)
筆者は、現実世界では女性用の洋服を着てはいませんが、『あつまれ どうぶつの森』では何も気にすることなく、ズボンでも、スカートでも、その時の気分で好きな服を着て、楽しんでいました。
■ゲームの内外で進む多様性
いくつかの事例から、かつては男性、女性のジェンダーによってゲームの中でも役割やできることが決まる部分があったのが、ユーザーの要望などを受け、徐々に解消されている様子が確認できました。そして今回、パートナーシップ制度を導入することで、任天堂は現実の世界においても、より多様な生き方を肯定する選択をしたと言えるでしょう。