ゲーム配信で初の逮捕者!渦中のMAGES.浅田誠取締役にその経緯と今後の対応を聞いた

ゲームのプレイ動画やアニメ作品を権利者に無断でYouTubeにアップロードしたとして、とある男性が5月17日に逮捕されました。その事件について、当事者であるMAGES.さんに経緯を聞きました。

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2023年5月17日、宮城県警察本部生活環境課と南三陸警察署は、ゲームのプレイ動画やアニメ作品を権利者に無断でYouTubeにアップロードしていた男性を著作権法の疑いで逮捕しました。

該当記事【ゲームプレイ映像の「メーカーガイドライン違反」配信で…ゲーム動画配信者が摘発―全国で初の逮捕か】

無断アップロードされたのは、ゲーム『STEINS;GATE 比翼恋理のだーりん』、アニメ「シュタインズ・ゲート」「SPY×FAMILY」など。特に『STEINS;GATE 比翼恋理のだーりん』はエンディングを含む1時間程度の動画が違法アップロードされており、ゲーム配信に関する著作権が問題になっている昨今、大きな注目を集めました。

そこで本稿では、権利者のひとつであるMAGES.にインタビューを実施。取締役でありクリエイターでもある浅田誠氏に摘発の経緯とゲーム配信におけるメーカー側の見解など気になる点を聞きました。

(取材:宮崎紘輔、気賀沢昌志 写真:小原聡太 執筆:気賀沢昌志 編集:松田和真)

▲MAGES.が4月27日にリリースした新作『やはりゲームでも俺の青春ラブコメはまちがっている。完』PV。本作のゲーム公式サイトでは、配信ガイドラインが設けられている。

【『やはりゲームでも俺の青春ラブコメはまちがっている。完』配信ガイドライン】https://oregairu.mages.co.jp/guideline.html

◆意外だった逮捕劇

▲取材に答えてくれたMAGES. 取締役の浅田誠 氏。

――今回の摘発の経緯を教えてください。

浅田誠 氏(以下、浅田):以前から警察による違法アップロードや動画配信の取り締まりが行われており、ニトロプラス様が、CODA様を通じて宮城県南三陸警察署の捜査協力要請を受け、その対応をしていました。CODA様(一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構)は、著作権侵害からの保護啓発活動などを行っている団体です。それで今回、共同権利者である弊社も関わる作品がその対象になっていたためニトロプラス様と協議の上、捜査協力をさせていただくこととしました。ただその段階ではどのような対処の仕方になるかわからない部分がありましたし、連絡の経路がニトロプラス様経由だったため、事務手続きについてはニトロプラス様にお任せする形で進めておりました。後から逮捕という結果を聞いて若干、驚きました。

――驚いたというのは、逮捕には至らないと考えていたのでしょうか?

浅田:正直、ここまでの内容にはならないかもしれないと思っていました。実は弊社もそれ以前に、摘発に協力したことがあったんです。それはプレイ動画の配信ではなくゲームを一本丸ごとアップロードするという今回とは異なるケースでしたが、その時に対処の方法にもいろいろあることを知りました。例えば違法アップロードされたものを削除する方法、今回のように摘発する方法……。厳重警告と削除するだけで終了かなとも考えていただけに、この結果には若干の驚きがありましたが、本件は我々のゲーム以外のコンテンツへの権利侵害もあったため、悪質な事例であると判断されてこのような結果になったと、後に説明を聞きました。

想像以上に細かい作業の積み重ねがあり、たしかに捜査に協力するのは大変です。しかしガイドラインに違反したゲーム配信を含め、あらゆる著作権侵害を野放しにすると我々エンタメ業界は衰退してしまうので見逃せませんでした。

――周囲の反響はいかがでしたか?

浅田:他のメーカー様からも「大変なのによくやったね」と。ユーザー様からは、以前にも増して通報のメールをいただくようになりました。ただ本来は弊社できちんと対応しなければいけないことです。ありがたいと思う反面、申し訳ないですね。

――現在、どれほどのリソースをさいて違法ゲーム配信やユーザーからの通報に対応しているのですか?

浅田:新規タイトルについては発売直後からしばらくは動画サイトを巡回しています。新規タイトルほどではありませんが、旧作タイトルも定期的に見て回っていますね。やはりゲームを買っていただいたお客様と購入されていない方が同じ体験ができてしまうのはよくありませんから。そこは我々もつねに注意しています。

――今回の逮捕劇を受けて、今後の対応で何か変化はありますか?

浅田:やはりメーカー側としては、もっと啓発していくことかなと。著作権の観点からすると無許諾での配信は基本的にすべて違法となりますが、われわれもゲーム配信自体は規約に則って行う限り悪いことではないと思っているんです。ただネタバレになるシーンなど、特にアドベンチャーゲームでは配信されては困る部分があるからこそ、規約などで「ここまでなら配信OKですよ」と説明をしているんです。

――配信のガイドラインを各社がつくるようになったのも最近の話ですよね。

浅田:そうですね。ただ、ガイドラインをつくっている意味や事情を知らずに、「みんなアップしているから」という感覚で、それが「悪いことをしている」という自覚がない人も多いと思います。ゲーム機自体にもシェア機能がついているので、アップできるものはなんでもアップしてOK、実際の規約がどうであれYouTubeにアップできるなら大丈夫と認識されて、ユーザー様に罪の意識がないとしても不思議ではありません。

それにゲームを無許諾で配信している人も、基本的には実際にゲームを購入して楽しんでプレイしていただいていると思うので、お客様のひとりではあるんです。そういったお客様から逮捕者を出したいとはわれわれも思っていません。ただ今回の件を経て改めてユーザーの皆様にお伝えしたいのは、基本的にゲームの動画配信は規約の範囲内でのみ認められている行為だということです。それ以外は明確な著作権の侵害であり、規約の範囲外で配信をするのであれば、収益化の有無に関わらず必ず著作権者であるメーカーの許諾が必要になります。やはり悪いことは悪いですし、楽しんでくださっているお客様を守るためにも啓発するのは大事だと考えています。

――過去には「マジコン」によって、ゲームの違法ダウンロードを「悪いこと」だと自覚していない人もいました。

※マジコン……正式には「マジックコンピューター」。ゲームソフトのデータを不正にコピー・動作させることができる機器のこと。所持しているだけでも忌み嫌われる違法機器である。

浅田:もしかしたら具体的な損害額がわかるような情報の開示も必要なのかもしれませんね。実際にはネタバレで困るというだけではなく様々な損害も発生します。エンタメの裏側を見せるのは夢を壊すようで個人的にはあまり好きではないのですが、やはりゲームを買っていただき、その売上で次のゲームをつくるというサイクルがある以上、無許諾の配信でアドベンチャーゲームの体験をすべて見せるという行為は、そのサイクルを断ち切ることになってしまうんです。

ゲームを1本つくるだけで多くのスタッフや会社が関わっています。エンディングのクレジットをご覧いただければわかると思います。その人たちの生活もかかっているわけですからね。

――配信規約など許諾まわりの整備についてはいかがですか?

浅田:どこまで配信していいかを明確にするのは大事ですよね。現在は一部の作品で個別に配信ガイドラインを設けている状況です。今の時代、まったく配信させないなんてあり得ないと私自身も思っているので、まだこれからもどう折り合いをつけていくかを考える必要があります。

たとえばボタンひとつで配信可能区間がわかるくらいはしてもいいのかなと。配信する際はそのボタンを押してもらうことでゲーム画面に何らかの表示が出るとか……。

――実際そのような機能を搭載するとして、そのための手間はどれくらいかかるのですか?

浅田:それほど難しくはないと思います。ただしそれはユーザーさんの性善説に基づくものなので、無視して配信するユーザーさんはゼロではないでしょうね。本当なら動画では体験できないアドベンチャーゲームをつくれればいいんですけど……。今はエグゼクティブプロデューサーの志倉(志倉千代丸氏)ならやってくれるのかな。過去、2人でそういう話をしたことがあったんですよ。でも結局のところは「やっぱり無理じゃない?」と(笑)。ただ自分が現役のうちにその方向性を示すようなゲームだけでもつくりたいですね。

――「科学アドベンチャーゲーム」シリーズはSNSに感想を書くにしても「おもしろかった」「よかった」くらいしか書けないので、ネタバレされても大丈夫なゲームができたら一石二鳥ではありますよね。

浅田:実は今、自分が開発しているゲームがそれに近いかもしれません。

――それはどういったゲームなのですか?

浅田:完全新規のオリジナル作品です。かつて自分がリメイクさせていただいた『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』というゲームがあって、それは故・菅野ひろゆきさんが手掛けた素晴らしい作品でしたが、あのプレイ体験にチャレンジしたいと思って制作しています。菅野さんは本当に天才で、ただ物語を読むだけではなくプレイ体験に直結するシステムになっているんですよ。

あとは「古畑任三郎」のような、最初から犯人がわかっていてそれを追い詰めるような倒叙物のスタイルが参考になるのかもしれません。ただそれも展開そのものをネタバレされたら意味はないんですけど…。

▲シナリオと「A.D.M.S(アダムス)」というシステムが密接に結びついていて、読むだけでは得られないプレイ体験をもたらす『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』

――プレイ体験といえば、『シュタインズ・ゲート』もアニメだけでは絶対に得られない、ゲームならではのプレイ体験がありますよね。特にそのプレイ体験がうまくハマッたからこそ、あそこまで話題になりました。

浅田:プレイヤーとキャラクターが深く共感するからこそネタバレで失ったおもしろさを、キャラクターの魅力が埋めてくれることはありますよね。そこは考える余地があるかも知れません。とはいえ究極の問題なので、今はできる範囲で悪質なゲーム配信に対処するしかありません。われわれとしてはユーザー様を不幸にしないようこれからも巡回しますし、「これは違法なんだよ」とひとりひとりのユーザー様に伝えるつもりで啓発していきます。

――それでは最後に、せっかくなので宣伝することがあれば。

浅田:そうですね……『STEINS;GATE』が来年で15周年ですから、そこへ向けて今年の秋頃に何か大きなことをしたいと思っています。

――それは楽しみですね!

浅田:今後ともMAGES.をよろしくお願いします!!

▲「科学アドベンチャーシリーズ」最新作の『ANONYMOUS;CODE』。
▲10周年を迎えたばかりの「科学アドベンチャーシリーズ」の一本『ROBOTICS;NOTES』(左)と、発売されたばかりの新作『やはりゲームでも俺の青春ラブコメはまちがっている。完』(右)。

(C)MAGES.
(C)MAGES./Chiyo St. Inc.
(C)MAGES./Chiyo St. Inc. ©MAGES./NITRO PLUS
(C)渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完 (C)MAGES.

《気賀沢昌志@Game*Spark》
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