■負けの悔しさが、灰皿にぶつけられていたあの頃
1人プレイを繰り返して技が出せるようになると、次第に相手を求めて対戦台に挑むようになります。そして対戦が始まれば、必ず勝者と敗者に分かれるのが現実です。勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。その気持ちは、今も昔も変わりません。
ですが、負けた悔しさを消化できず、怒りに転じて表に出す人もいました。もちろんこれは当時でもマナー違反ですが、対戦格闘ゲーム自体がまだ新しかったので、そこで味わう悔しさに耐性がなかったのでしょう。
その怒りが向かう矛先として象徴的だったのが、「灰皿」です。今では、部分的もしくは全面的に禁煙のゲームセンターが多いものの、当時は喫煙が当たり前。そのため、ほとんどのゲームセンターに灰皿が常備されており、筐体のあちこちに銀色の受け皿が置かれていました。
これもマナー違反ですが、負けた怒りに思わず筐体を殴りつけ、その反動で灰皿が浮かび、床に転がるといった景色を何度か目にしました。中には、灰皿を直接持ち、力任せに壁や床に投げた人もいた模様です。
そこまで激しい行為はかなり稀ですが、灰皿がごく当たり前に存在し、怒りの矛先にされていたというのは、時代を感じさせる出来事のひとつ。とはいえ、問題行動なのは確かなので、今では見かけなくなって安堵するばかりです。
■見知らぬ他人が真横にいる、緊張感たっぷりの対戦環境
当時の対戦環境として忘れられないのが、筐体の事情です。今ではオンライン対戦が普及していますし、オフラインでも2台もしくは複数の対面筐体による対戦が基本です。
しかし当時は、『ストII』のブレイクを受けて対面型の筐体が普及し始めたため、店によって対面型の導入はまちまち。そのため今ではほとんど見られない、「横並びの対戦」も日常的にありました。
例えばSTGやACTなど、2人が協力して遊ぶ同時プレイ型のゲームは今も昔もありました。ひとつの筐体に操作レバーと各種ボタンが2組分あり、左右に座って友達同士でプレイするタイプです。
この、2人同時プレイ型の筐体で『ストII』を提供している店もあり、そこで行う対戦は必然的に“横並び状態”となります。肘と肘がぶつかりそうな至近距離に、身も知らぬ他人が座るプレッシャー。その緊張感は相手も同様で、お互いに勝負とは別の部分で気を張りつつ、間近の真剣勝負に挑むこともありました。
友達同士ならOKなパーソナルスペースに、まったくの他人も入ってきた時代。大胆でもあり、互いにビクビクもした対戦環境でした。