人気プロゲーミングチーム「Crazy Raccoon」と、バーチャルeスポーツプロジェクト「ぶいすぽっ!」の運営として知られる「バーチャルエンターテイメント」。昨今、隆盛を極めるゲーム配信市場で、ひときわ存在感を示す二者がタッグを組み、“教育”を目的とした新規事業へ踏み出します。その名も「CR Gaming School(以下、CRGS)」です。
「CRGS」は“ゲームの上達”に特化したオンラインスクール。受講生一人ひとりに厳選されたコーチが付き、週に一度のマンツーマンレッスンで、『Apex Legends』など人気タイトルのゲームプレイに関する指導を受けることができます。Crazy Raccoonの全面的なバックアップのもと、他では体験できない“ゲームのレッスン”を提供するサービスなのです。
具体的には、これまでのeスポーツ教育にはなかった独自の“カルテ”や練習時間などのスケジューリング、毎日いつでも質問や相談ができるチャットサポート、合同トライアウトへの招待、Crazy Raccoonのメンバーから直接指導を受けられるチャンスも設けられているなど……充実のオプションが揃う本プロジェクトは、どんな狙いがあるのでしょうか?
Crazy Raccoon(以下、CR)のオーナーであるCR.おじじ氏と、株式会社バーチャルエンターテイメント(以下、VE)で本事業の責任者を担う久保敦俊氏にインタビューを実施し、前例のないeスポーツ教育に懸ける“想い”についてお伺いしました。
【インタビュイーのプロフィール】■高野大知(CR.おじじ)プロゲーミングチーム「CrazyRaccoon」を運営する株式会社Samurai工房・代表取締役。俳優・焼肉店のオーナーなどを経て、2018年にプロゲーマーの友人たちとCrazy Raccoonを結成。自身も大のゲーマーで、人気インフルエンサーたちを集めたコミュニティ大会「CRカップ」の主宰も務める。 ■久保敦俊開成高等学校を卒業後、慶應義塾大学総合政策学部に入学。在学中の2016年より株式会社CyberZにてesportsブランド「RAGE」の運営やプロリーグの設立に従事。その後、新卒で株式会社サイバーエージェントに入社。2019年からカードゲームのプロプレイヤーとして活動を始め、現在プロ活動4年目。株式会社サイバーエージェントを退職後、ANYCOLOR株式会社や外資系ITベンチャーで新規事業に従事し、現在株式会社バーチャルエンターテイメントにて「CR Gaming School 」の事業責任者を担当。 |
――まず「CR Gaming School」に関する具体的なお話を伺う前に、現状の「eスポーツ教育」に対して、どのような印象を持たれていますか?
CR.おじじ:やっぱり……まだ“定まっていない”ですよね。しっかりとしたロジックが確立されていないというのが正直な感想です。今回、「CR Gaming School」を始めるうえで、他業種を含めた予備校・専門学校などを調査し、実際の卒業生の声も訊きましたが、「eスポーツ教育とはこうである」という決定的な理屈や信念が感じられず……。
久保:「じゃあ作ってしまおう」と(笑)
CR.おじじ: それと僕自身が「ゲーム上手くなりたい」と思ったときに、頼りたいと思えるサービスが無かった。例えば芸能分野では、宝塚音楽学校やNSC(吉本総合芸能学院)など、教育機関として確固たるものが存在していますよね。
CR所属メンバーには、既存のeスポーツ教育を受けたことがあるメンバーが一人もいません。「なんでいないのだろう?」と考えたとき、それらが魅力的ではないし、内容が確立されていないからだと思ったんです。
久保:英会話や勉強、ダイエットといった分野を見ると、長い歴史の中で多くの人や企業がメソッドの確立に取り組み、そのうえで独自の色を付けながらサービスを展開しています。しかし、ゲームにおいては明確なメソッドが一般的になっていない。だからこそゲーム上達のメソッドの“当たり前”を作り、本気でゲームを学びたい人に新たな選択肢を提案したいと考えていました。
◆CR Gaming Schoolは、誰に向けたサービスなのか
――そこで新たに始動する「CR Gaming School」。こちらは既存のeスポーツ教育に対して、どのような立ち位置になるのでしょう? プロになるための前段階のようなスクールなのでしょうか?
CR.おじじ:いえ、決して「プロゲーマーになりたい人」だけに向けたサービスではありません。そうですね……『VALORANT』のランクはいくつですか?
――プラチナです。
CR.おじじ:アセンダントに行きたくないですか?
――……めっちゃ行きたいです。
CR.おじじ:そういう人向けです(笑)。「本気でゲームが上手くなりたい人」に向けたサービスです。
――なるほど。つまり、純粋にゲームでもっと上を目指したい人のためなんですね。
CR.おじじ:多くの人員を割き、どこよりも体制を整え、そういった人の願いをしっかりとカバーできるようにしています。相応な金額はいただきますが、こちらはCRのメンバーやレッスンを担当する厳選されたコーチを含め、たくさんの人間が関わっているので、このように設定せざるを得ませんでした。
――やはり、実際に指導をしてもらうのが大事なのでしょうか?
久保:その通りです。上達するためのヒントはいくらでもインターネットにありますが、それを見るだけでスキルが身につく人は限られます。プロの動画から研究しようとしても、現実的には上手いかないケースが多い。また、頭ではやった方がいいと思っていても、自分自身のプレイを振り返って反省したり改善したりするのはなかなか難しいです。
CR.おじじ:僕もそうです。例えば、プリエイムの手ほどきなど色々ありますが、結局身につかないじゃないですか(笑)。FPS系のゲームだと、動画で見たものと同じ状況に遭うことも珍しいですし。
久保:多くの情報から、なにが自分に合っているのか取捨選択するのは難しいからこそ、上手い人の思考過程や上達の過程をしっかりと吸収することが大事です。「CR Gaming School」では、「本気でゲームが上手くなりたい人に対して本気で向き合う」というビジョンをもとにサービスを提供します。
――そもそもどのような経緯で、CRとバーチャルエンターテイメント(以下、VE)が連携するに至ったのでしょうか?
久保:VEといえばeスポーツ×キャラクターIP「ぶいすぽっ!」が知られていますが、以前から大会制作・運営などeスポーツ事業に取り組んでいました。そんななか、今後のeスポーツシーンで課題になるのは、次世代を輩出する仕組み……つまり教育だと考えていました。自分自身eスポーツシーンに長く携わっていたことや、勉強やカードゲームに本気で取り組んできた経験があるため、“eスポーツ×教育”の新規事業を模索していたんです。そして弊社の代表と、おじじさんが同じ懸念を持っていたことが分かり……といった感じですね。
CR.おじじ:僕としては、純粋に「欲しかったから」ですね。それが一番です(笑)
かつて焼肉店をオープンしたのも、僕の行きたいお店を作りたかったから。CRを作ったのも、ゲームで生活していけないプレイヤーへ一時的なスポンサーになるよりも、自分でチームを作った方がいいなって思ったから。利益ファーストではなく、自分が欲しいから、必要だから始めるんです。今回もそうですね。
――CRとVEが、どのように役割分担されるのかも教えていただけますか?
久保:大まかに言うと、マンツーマンレッスンや練習のスケジューリング、カルテの作成、チャットサポートなど、パーソナル側はVEが担当します。
CRさんにはメンバーが関わる特別講義やトライアウト、Discordコミュニティの運営などコミュニティ側をお任せする形です。今回のインタビューでも使わせていただいているCR Gaming Spaceを、今後活用する場合があるかもしれません。
◆上達への“道筋”を知るレッスン
――レッスンは週一回の実施とのことですが、具体的にはどのような内容を想定されているのでしょうか?
久保:一回90分のマンツーマンレッスンで、直接的なティーチングというよりコーチングがメインとなっています。例えば一緒に試合をプレイするというより、宿題として受講生の方に提出していただいた動画を元に、分析し現時点の課題を洗い出し、改善していくための提案をさせていただきます。
また、ゲームを練習する習慣作りにも取り組みます。明日からいきなり「毎日3時間エイム練習をしよう!」というのも無理な話なので、まずは少ない時間であったり、なにか他の行動に紐付けることで練習の習慣を身につけられるようなプランニングも行います。
レッスンにおいて最も大事にしていることは、上達における“PDCAサイクル”の回し方を指導することです。これはゲーム以外にも通用する考え方なので、毎週のコーチングやプランニングによってこのフローを言語化し身につけていってもらいます。
CR.おじじ:加えて週に一回、CRのメンバーが教える機会もあります。
――週に一回!?そんなこと可能なんですか?
CR.おじじ:できます!
久保:完全なマンツーマンは難しいですが、「15名程度の受講生 対 CRメンバー1人」のような特別講義の後に、一人につき数分程度マンツーマンの時間を用意して、相談できるような機会を用意したいと考えています。
――協力してくれるCRのメンバーは、この施策をどのように捉えているのでしょうか?
CR.おじじ:モチベーション高いですよ。MondoとかSellyとか、一見やらなそうなメンバーも「やるよおじじ」と。さらには「やる気がある人にゲームを教えたい」とまで言ってくれています。教えることが上手いから、やりたい人が多いのかなと思いますね。
久保:教えることは自分の勉強にもなって楽しいですもんね。