2022年12月26日から31日にかけて東京都渋谷区「note place」で開催されたチャリティRTAイベント「RTA in Japan Winter 2022」。RTAイベントにおいて、最も注目を浴びるのは実際にゲームをプレイする走者達ですが、本記事では、その凄さを隣で引き立てる解説者にフォーカスします。
RTAイベントにおける解説は、同じゲームの走者のひとりが務めるケースが多いのですが、走者人口の少ないゲームやカテゴリーの解説においてはこの限りではありません。今回は、RTAイベントでの解説を無償で請け負う活動を4年以上にわたって続けているアジーン氏にインタビューを行いました。
「RTA in Japan」で通算22回の解説を担当してきたアジーン氏は、昨年末『星のカービィ Wii』解説者として、オンライン走者のshiro氏を現地からサポートしました。本記事の前半では両氏に「RTA in Japan Winter 2022」に向けた準備と本番のことについて振り返っていただき、後半ではアジーン氏に、これまでの活動とRTA解説者の役割について語っていただきました。
『星のカービィ Wii』走者shiro氏、解説アジーン氏インタビュー
──まずは本番お疲れさまでした、ナイスランでした。ご自身の走りを振り返っていかがですか?
shiro:良い走りができたと思います。今回は「ウルトラソード」でラスボスの第1形態にとどめを刺した分、30秒ほど遅くなったのですが、それを考慮すると世界記録に匹敵するペースでしたね。
──目標寄付額を達成したことで「ウルトラソード」による専用の演出を披露することになったのですよね。アジーンさんの解説はいかがでしたか?
shiro:自分の走りを引き立てるように喋って下さいました。地味な短縮技や、事前にレクチャーした細かい知識が盛り込まれていた点も良かったです。
アジーン:解説依頼をいただいて最初に意識合わせしたのが、『星のカービィ Wii』を知らない人にもプレイの凄さを伝えてほしい、という方針でした。求められていた役割をこなせたのであれば何よりです。
──今回アジーンさんに解説を依頼した経緯を教えてください。
shiro:アジーンさんを知ったのは「RTA in Japan 2019」の『スーパーメトロイド』の解説でした。その後、「走者が良かった、ゲームが良かったと言われるのが一番良い解説である」というアジーンさんの持論を聞いて、これだ!と思い解説を依頼しました。もちろん本来は『星のカービィ Wii』走者にお願いしたかったのですが、「100%」というカテゴリーを解説できる人が見つからず、今回の形になりました。
アジーン:実はshiroさんとはこれまで直接の交流が無く、今回の解説依頼がファーストコンタクトでした。過去に請け負ったRTA解説を通じて、走者の方からこうして信頼いただけるようになったことは素直に嬉しいですね。
──解説準備はどのような流れで進めましたか?
アジーン:『星のカービィ Wii』は未プレイのゲームだったので、まずはロケハンを兼ねて初見プレイを行いました。この段階では動画や資料を見ずに、何も知らない状態からフラットな目線でプレイすることを大事にします。走者による解説と比べると、技術面の知識ではどうしても勝てないのですが、ある意味視聴者に近い目線を持っているのが自分の解説の強みと考えています。
──「RTA in Japan」では、未プレイのゲームのRTA視聴を楽しみにしている方も多いですからね。
アジーン:初見プレイが終われば、世界記録の動画を観て自分のプレイとの差分を確認します。どこが凄いのかを肌で感じられるので、プレイ前に観るのとは全然違いますね。過去の解説動画も参考のため視聴しました。
shiro:前提知識を覚えていただいた後は、動画を流しながら通話で細かいテクニックなどをレクチャーしました。また、マップ毎に解説してほしいことを書いた解説原稿も、本番の3週間ほど前にアジーンさんに渡しました。
アジーン:この原稿内容があまりに詳しくて驚きました。解説ポイントが網羅されているだけでなく、優先度に応じて色分けまでされていて。shiroさんほど充実した資料を提供してくださる方は珍しいですね。練習時間を削らせてしまったのではと、少し心配にもなりますが。
shiro:今回は理想とする解説内容が自分の中ではっきりしていたので、それを文字に起こしてお渡ししました。
アジーン:分量もちょうど良い台本でした。内容が足りない場合は実況ベースのアドリブで埋めることになり、多すぎるとどこを削ってよいか分からず困ることになります。shiroさんに良い資料を提供いただいたおかげでスムーズな仕事ができました。もちろん、shiroさんの本番でのパフォーマンスが素晴らしかったおかげでもあります。
RTA in Japan Winter 2022 参加レポート 星のカービィWii解説&技術ボランティア(前編:事前準備)アジーン氏単独インタビュー
──ここからはアジーンさんの過去の解説について伺います。最初にRTA解説を担当したのは何のゲームですか?
アジーン:PS2版の『ドラゴンクエスト5』です。オフライン開催が2回目だった「RTA in Japan 2」当時は、解説という役割に求められるものはあやふやでした。走者のping値さんがツイートで解説募集していたのを見て「オフ会のお手伝いに行ってくるか」くらいの気持ちで立候補したのが最初ですね。乱数調整によって大当たりを出す「カジノ技」が見せ場なのですが、そのあたりの知識を詳しく教えていただいた上で、基本的には「ドラクエトーク」で時間を繋ぎました。
──現在のように解説を請け負うスタイルになったのはいつ頃ですか?
アジーン:2018年末に開催された「RTA in Japan 3」の頃ですね。自分はRTA走者ではなく、名無しのいち視聴者だったのですが、実際に解説を担当してみて、視聴者でもRTAイベントに関われるんだなと思ったのがきっかけです。また、解説を頼める人が見つからず困っている走者が意外と多いことにも気づいたので、需要を感じて「解説請負人」のような活動を始めました。
RTAイベントにおける解説の請負について──これまで担当した中で特に印象に残っている解説はありますか?
アジーン:色んな意味で思い出深いのは「RTA in Japan Online 2019」で解説したPS4の『ドラゴンクエスト3 そして伝説へ』です。走者のユーリルさんの解説募集を見て立候補したのですが、いざ本番が始まるとユーリルさんの喋りが非常に上手く、解説者は要らないんじゃないか、くらいの勢いだったんですね。自分としては「何か解説しなきゃ」という気持ちが出てしまい、トークがぶつかってしまう場面がありました。走者のスタイルに合わせることの重要性を思い知りましたね。
──ひとつのターニングポイントになったわけですね。
アジーン:解説者は単にRTAを解説すればよいものではなく、あくまで走者をサポートする存在なんだ、という考え方にこの時シフトしました。
──アジーンさんが得意とするのはどんなゲームの解説ですか?
アジーン:時間の長いRPGで、ゲームの小ネタなどを交えつつゆるく喋るのが得意なスタイルですね。アクションゲームだと、見せ場が来るときに事前に説明しておかないと間に合わないので、常に忙しく大変です。また、『野生動物運動会』のようなユニークなゲームの解説は、本来の自分のスタイルだとなかなか難しいですね。
──特に面白かったという感想の多いゲームですね。
アジーン:『Paris Chase』の解説の時もそうでしたが、こういった個性の強いゲームの解説では、観客を信頼してリアクションを任せるようにしています。積極的にゲームの面白さをアピールするのではなく、あくまで見たまんまを真面目に説明して視聴者に委ねる。そうすると、ユニークな見た目とのギャップで自然と盛り上がることが多いですね。
──解説にあたって原稿はいつも準備していますか?
アジーン:RTAの長さによりけりですね。30分未満のRTAでは解説すべきことが出番の尺に対して多いので、喋る内容をほぼそのまま用意します。それ以上の長さのRTAになると、マップやステージごとの箇条書きスタイルで原稿を用意することが基本です。
──アジーンさんから見て特に良かった他の解説者を教えてください。
アジーン:「RTA in Japan 2」での山成倉者さんの『ラチェット&クランク2 ガガガ!銀河のコマンドーっす』の解説が個人的には伝説級です。走者解説の関係性というより、友達同士が家で遊んでいるような雰囲気で、子どもの頃に帰ったような懐かしい気持ちにさせてくれました。
──解説を請け負うようになって、RTAの見方は変わりましたか?
アジーン:今でも視聴者目線のままであることは変わらず、走者側に回ろうとも特に考えていません。現場で走者のプレイを最前線で見ていると、やっぱり住む世界が違うと感じますからね。解説請負業についても、いずれ走者の中で完結するようになって自分の仕事が無くなれば視聴者に戻れて楽だな、くらいに考えています。
──最後に、「アジーンさんが思うRTAの名解説」について語って下さい。
アジーン:逆説的ですが「解説が良かった」と言われないのが名解説だと考えています。自分が視聴者なら、主役は走者とゲームであってほしいと思うので、走者とゲームが良かった、と言われるのが一番の誉め言葉ですね。ゲームが好き、RTAが好きという走者の想いを伝えるための手段が解説であるという意識を大事にしながら、今後も変わらず活動を続けていきたいです。