長い夜を越えた先には「Sunbreak」が待っている―「狩猟音楽祭 オーケストラコンサート2022」鑑賞レポート

有観客のホールに音楽の咆吼が響き渡りました。

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8月27日、東京国際フォーラム ホールAにて「モンスターハンターオーケストラコンサート~狩猟音楽祭2022~」が開催されました。

年1回の定期公演が行われてきた「狩猟音楽祭」も、時勢の影響から2020年と2021年はオンライン配信のみの開催となり、有観客で演奏されるのは実に3年ぶり。

『モンスターハンター』の楽曲は大自然を表現するものが多く、約5,000人を収容する国際フォーラムでは、スタジオ録音にはない「全方位広い空間に包まれる」体験があります。直に演奏を聴く機会が戻ってきたのはうれしい限りですね。

今回のセットリストは『モンスターハンターライズ』の2.0アップデート以降、そして超大型拡張コンテンツにあたる『サンブレイク』に登場するモンスターが中心。多彩なゲスト奏者を迎え、大迫力の「咆吼」を堪能する2時間となりました。

インサイドでは「楽器」と「表現」に注目したレポートをお届けします。皆さんは音楽から何を想像しましたか?

第1部:ゲスト楽器で大連続狩猟!人気モンスターが勢揃い

オープニングは『サンブレイク』で最も印象的な、調査拠点エルガドのテーマ「とこしえなる潮風を感じて」。クラシックギターのソロから静かに始まり、原曲にはない木管が蒸気機関を連想させます。

この曲は3・3・2・2・2のフラメンコリズムなのですが、クラシカルな弦楽器と、生水敬⼀朗氏によるバンドネオンが奏でるタンゴ調のメロディが乗り、ラテンの情熱的な港町を感じさせました。

続いて、電撃の象徴であるエレキギターが炸裂する「電の反逆者/ライゼクス」。実はこの曲も3・3・2・2・2の12拍子でできており、同じリズムでありながら対照的な2曲が並ぶ面白い組み合わせです。

MCでは「モンスターハンター」シリーズのプロデューサーである辻元良三氏を交えて、演奏者紹介が行われました。指揮の栗田博文氏はジャンプもするダイナミックな指揮にファンも多く、当コンサートの名物キャラクターでもあります。いつも内容に合わせた色のアイテムを胸元に着けており、今回はエルガドをイメージした「青いバラ」のブローチでした。ステージ登場前に必ずする「3回ノックの儀式」もしっかり聞こえたので、アーカイブ視聴で是非確かめてください。

サウンドトラック、狩猟音楽祭常連の「HIDE×HIDE」はゲーム実況をやるほど筋金入りのハンターなのですが、尺八の石垣秀基氏はやりこんだ3DS版を本体ごと紛失し、泣く泣くやり直す羽目になったエピソードが辻本氏から飛び出しました。(無くしたのは『4G』スペシャルパックで狩猟音楽祭の宿泊ホテルだったとか

HIDE×HIDEを迎え、「妖艶なる舞/タマミツネ」「深い森の幻影/オオナズチ」「閃烈なる蒼光/ジンオウガ」の和楽器連続狩猟。尺八は5種類を使い分ける「疾替え」にも注目です。

尺八は動物や風など自然を描写するレパートリーが多く、狩猟音楽祭では特性を生かした表現も使われました。「オオナズチ」では「鳴き声」が響き渡り、広い会場ではモンスターの息吹を感じ取れたのではないでしょうか。

その「オオナズチ」はこれまでの演奏回数が意外に少なく、有観客で披露されるのは2017年以来5年ぶり。一方「ジンオウガ」は2011年の初演以来9回目で、「英雄の証」を除けば最も多く演奏されており、改めて人気の高さが窺えます。

次のMCではメインコンポーザーの堀諭史氏が登壇し、話題は『サンブレイク』の楽曲コンセプトへ。本編の「和」と対照的な「西洋」をイメージして作曲し、クラシック調の進行などを意識したと語ります。

主役となるバンドネオンは、あるだけで地中海や南米の潮風を感じるような蛇腹楽器で、「リベルタンゴ」(ピアソラ)で使用されるのが有名です。「どちらにするか迷った」と堀氏が述べたようにアコーディオンとも比較されますが、大型で和音も出せるボタンがあるアコーディオンに対し、バンドネオンは一回り小さく1ボタンに1音のみ(この定義に当てはまらない機種もあり)。「スンッ」というやや鼻にかかるような音色が特徴で、アルゼンチンタンゴに使うような抒情的なメロディを奏でるのが得意です。エルガドの物語には様々な面が秘められており、憂いを帯びたバンドネオンの音色はぴったりですね。

なお、ゲーム本編のサウンドトラックでは第一人者である小松亮太氏が演奏しています。操作の複雑さや生産の事情から日本のプロ奏者は片手で数えられるだけしかおらず、これを機に是非「バンドネオン」という楽器名だけでも覚えて頂ければ幸いです。

(参照:[蛇腹談義37] バンドネオンは悪魔の楽器じゃない!誰だそんなこと言った奴は!

『ライズ』では狩猟の状況と音楽がシンクロするプログラムが用意されており、距離に応じたボリュームの調整や、戦闘から離れた時間に応じて次に再生する箇所を変えるといった工夫があるとのこと。狩猟の緩急や立て直しからの再挑戦など、鳴り方の変化にも注目してみてください。

第1部終盤は近作のメインモンスターから「悪逆無道/マガイマガド」「銀翼の凶星/バルファルク」「朱に染むる夜宴/メル・ゼナ~クエスト成功:Sunbreak ver.」の3曲。

「マガイマガド」は狩猟笛で作れるような琵琶の音色が象徴的なモンスター。重要なレパートリー「平家物語」はまさに怨霊を鎮めるためと伝えられています。ソロパートにおける榎本百香氏の所作はマガイマガドの怨念を語るようでもあり、全体の中でも異彩を放つ演目になりました。

山場の「メル・ゼナ」で表現されているのは「高貴さ、気高さ、素早さ」で、狩猟音楽祭ではパイプオルガンの代わりに木管楽器を使用。合唱による圧倒的なオーラを纏つも、鋭いアタック音の連続で突き刺すような攻撃をイメージさせたり、ヴィオラとチェロにビブラートを付けてホラーの雰囲気を付け加えたりと、様々な「恐ろしさ」が伝わってくる楽曲でした。

「クエスト成功」では再びバンドネオンが登場。軽快なタンバリンと合わせて、高揚感と共に安堵感もある優しい締めになりました。

第2部:生命の愛しさと切なさと―人々のドラマを彩った名曲達

第2部ではソリストなしのオーケストラサウンドを中心に、狩猟曲以外のエモーショナルな場面で使われる楽曲で組まれました。栗田氏のブローチもカムラに合わせた「赤のバラ」に。

1曲目はミリオンを達成して好評を博している『ストーリーズ2』のメインテーマ「風の絆 モンスターハンターストーリーズ2 version」。派生作として物語性を重視していることから、本編にはない切なさを感じる展開が印象的です。『モンハン』初期作のような雄大さもあり、『ストーリーズ』の方も本編と並んで続いて欲しいところです。

「旅立ちの風」はなんといってもパーカッションが大活躍。ホール音響で聞くと吹奏楽経験者なら「アフリカン・シンフォニー」を連想するのではないでしょうか。続く「光蝕む外套/ゴア・マガラ」もそうですが、オーケストラサウンドの中にも木管と金管が生きる吹奏楽の響きがあるのが『モンハン』楽曲の人気の秘訣なのかもしれません。

『MHW:IB』からは「継がれる光」「幽衣より解き放たれし王~王の座興/ムフェト・ジーヴァ」の2曲。「継がれる光」ではベリオロスと同様にピアノで寒さを表していますが、物語とリンクするように、ピアノが最初に弾いた旋律が別の楽器に引き継がれ、別の旋律と絡みながら大きくなっていく、そんな「モチーフ」の効果がよく発揮されている曲です。

プログラムのトリは、『サンブレイク』のエンディングから、サラ・オレイン氏を迎えた「Sunbreak」。ゲームでは日本語、英語、モンスターハンターの言語の3種類で聞くことができ、設定言語に応じたものが流される仕様です。

オレイン氏の衣装はメル・ゼナなどをモチーフにした特注品で、モンハン語による伸びやかで力強い歌声はタイトル通り、モンスターとの死闘をくぐり抜けた先に見える「日の出」の時が見えるようでした。

アンコールは「光と闇の転生/シャガルマガラ」と、恒例の「英雄の証」。舞台袖から出たり入ったりする栗田氏が見られるのも、アンコールの拍手をする観客がいてこそ成り立つもの。セットリストでもタマミツネからヴァルファルクまでの曲順は昨年度の「2021」と同じで、観客の前で演奏できることに意義があるということなのでしょう。状況は未だ予断を許さないとはいえ、コンサートが開催できるありがたさを改めて感じました。

最後に辻本氏が、地方や海外の公演もやりたいと前向きな姿勢を見せる一幕も。果たしてリクエストでフルフルの曲が演奏される日は来るのか、早くも“次”への期待を残して、コンサートは無事閉幕しました。

オンラインで繰り返し観られるアーカイブ配信は9月4日まで。チケットはZAIKOにて販売中です

演奏曲目一覧

指揮:栗田博文

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

第1部

とこしえなる潮風を感じて:バンドネオン(生水敬⼀朗)、A.ギター(宮﨑⼤介)
電の反逆者/ライゼクス:E.ギター(宮﨑⼤介)
妖艶なる舞/タマミツネ:尺⼋、三味線(HIDE×HIDE ) 
深い森の幻影/オオナズチ:尺⼋、三味線(HIDE×HIDE ) 
閃烈なる蒼光/ジンオウガ:尺⼋、三味線(HIDE×HIDE ) 、E.ギター(宮﨑⼤介)
悪逆無道/マガイマガド:琵琶(榎本百香)、尺⼋(HIDE×HIDE)、男性合唱(Voces Tokyo)
銀翼の凶星/バルファルク:合唱(Voces Tokyo)
朱に染むる夜宴/メル・ゼナ~クエスト成功:Sunbreak ver.:バンドネオン(生水敬⼀朗)、合唱(Voces Tokyo)

第2部

風の絆 モンスターハンターストーリーズ2 version:A.ギター(宮﨑⼤介)
旅⽴ちの風
光蝕む外套/ゴア・マガラ
継がれる光
幽衣より解き放たれし王~王の座興/ムフェト・ジーヴァ:合唱(Voces Tokyo)
Sunbreak:ボーカル(サラ・オレイン)

アンコール

光と闇の転生/シャガルマガラ
英雄の証


モンスターハンターライズ オリジナルサウンドトラック
¥3,876
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
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