“ゲーミングデバイス参入への躊躇い”は社長曰く「全くなかった」―東海理化 × ZETA DIVISION「ZENAIM KEYBOARD」を手掛けるキーパーソンに話を訊く

東海理化から代表取締役社長の二之夕 裕美氏、ZENAIMプロジェクトマネージャーの橋本侑季氏、ZETA DIVISIONを運営するGANYMEDE株式会社からプロデューサーの佐橋明氏へインタビューを行いました。

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自動車部品メーカー「東海理化」は、ゲーミングキーボード「ZENAIM KEYBOARD」を発表しました。クルマの部品に用いられる磁気センサーを応用し開発されたオリジナル磁気センサースイッチ「ZENAIM KEY SWITCH」を搭載したロープロファイルキーボードです。価格は48,180円とハイエンドモデルであるものの、5月16日(火)に発売されて即完売となるほど人気を博しています。

プロゲーミングチーム「ZETA DIVISION」と共同開発されたこちらは。同チームに所属するプロプレイヤーやストリーマーなどのフィードバックを得て実現しました。

ZENAIM KEYBOARDは、“一人一人にとって幸福なゲーム体験の提供を目指す”という意味が込められた「WELL GAMING(ウェルゲーミング)」を掲げるゲーミングギアブランド「ZENAIM」の第1弾プロダクトとして発売され、今後はコントローラーやチェアなど、さまざまなデバイスへの参入も検討されています。

今回は、東海理化から代表取締役社長の二之夕裕美氏、ZENAIMプロジェクトマネージャーの橋本侑季氏、そしてZETA DIVISIONを運営するGANYMEDE株式会社からプロデューサーの佐橋明氏へインタビューを行いました。

お伺いしたのは、開発への思いやZETA DIVISIONの関わり方、「VCT 2023: LOCK//IN São Paulo」で選手ら投稿したツイートの裏話など。なお、本インタビューはメディア向け発表会が行われた2023年4月27日に実施したものです。

画像右から、「東海理化」代表取締役社長・二之夕氏、ZENAIMプロジェクトマネージャー・橋本氏、「GANYMEDE」プロデューサー・佐橋氏

◆ゲーミングデバイス参入への躊躇いは「全くなかった」

――早速ですが、クルマの部品をつくる会社として、ゲーミングデバイスを手掛けることに躊躇いはなかったのでしょうか。

二之夕裕美氏(以下、敬称略):全くなかったです。むしろ我々が持っている技術が「こんな使い方ができるんだ」という驚きがありました。

eスポーツの世界的な広がりは、少し前の僕らには考えつかないようなことになっています。5年~10年経てばさらに広がっていくでしょう。そんななかで、キーボードはさまざまな分野にチャレンジができるスタートになると直感的に思っています。

ただこの分野は、僕らにとって全く知らない世界なんです。そんな僕らが「なんでゲーム分野なんかやるんだ」で終わらせてしまうのは、勝手に道を閉ざしてしまうだけです。それなら余計なこと言わずにやってみようという思いがあります。また、弊社の主流ではないクルマ以外の分野において、我々の技術を極めた製品を作るチャンスは、そう滅多にこないんです。是非チャレンジをしたいという気持ちですね。

――開発チームの規模感はどの程度だったのでしょうか?

橋本侑季氏(以下、敬称略):もちろん製品専任チームのアサインもありますが、既存のお仕事もあるなかで、新規事業を手伝うという形のメンバーもいました。人数はとても多いです。

――ゲーミングデバイスにはソフトウェアが必須ですよね。東海理化はハードウェア開発で有名ですが、ソフトウェア開発のノウハウはあったんでしょうか。

橋本:新規事業としてデジタルキーなどを開発しており、そこで培ったノウハウもあれば、専門の会社さんとの提携もあります。専門のソフト開発部隊も置いていますね。

――ソフトは先ほど実際に触りましたが、レスポンスも良好な印象でした。軽さと安定性が維持されると嬉しいです。

二之夕:安定性には自信があります(笑)

――橋本さんは先ほどの説明で、他社の製品はスペックを上げることに気を取られていると指摘されていました。それについて私自身とても共感できるものではありますが、といっても他の製品との差別化はとても難しいように思います。

橋本:市場参入する上で、CherryさんやKailhさんのスイッチをただ嵌めて出すことも可能ではあります。でもそういう形ではなくて、一番ユーザーにとって大切なものをZETAさんとすり合わせをしていくなから模索し、ユーザーにとって大切になる要点を弊社の技術を使って実現したことです。

――橋本さんはご自身でゲームをプレイされるんでしょうか。

橋本:『Apex Legends』や『VALORANT』などをプレイしていますね。自分がゲームをプレイする上でデバイスを調べていくと、海外メーカーしかないな……という現状が見えてきました。それが企画のきっかけのひとつです。

さらにはサポートが繋がらないなど、海外メーカーならではの問題などもみられたので、ここもしっかりやろうと。なんで日本メーカーはあまり力を入れていないのかなと思いました。

二之夕:それがきっかけだったんだ。記者さんもゲームやられるんですよね?

――もちろんです!なので橋本さんのお話には共感できる部分が多いです。

二之夕:10台くらい買ってください(笑)

――考えておきます(笑)。ところで、開発期間はどの程度あったのでしょうか。

橋本:紆余曲折あった企画段階も含めて2年くらいですね。

――二之夕社長はまず企画書ではなく試作品が開発部から届いたと話されていました。

二之夕:2年前に「新たなビジネスをしよう」と部隊を作りました。例えば、学研さんと共同開発した特別支援学校向けデジタル教材の専用タッチペンなどもそのひとつで、弊社の振動技術が使われています。いろんなものを並行して動かしていたんです。

それらの企画には、ひとつとして企画書などは提出させずに「こんなのできたけどどう?」という段階から見せてもらっています。新規事業のための予算をごそっと渡して、そのなかで自由にチャレンジしてもらう形にしています。

◆Laz・crowによるツイートの裏話

――今回、ロープロファイルを採用した理由はなんでしょうか?

橋本:Laz選手などの意見を聞きながら試作を繰り返し、反応速度が速くて最適なストロークを探っていきました。結果的にロープロファイルという形になりましたね。

――Laz選手の他には、どのようなZETA DIVISIONのメンバーが関わっていたのでしょうか。

佐橋明氏(以下、敬称略):Laz、XQQ、すでたきなどから「反応速度を上げたい」といった抽象的な要望を出して、東海理化さんから技術的なアプローチを話し合いつつ、ですね。

――東海理化とZETA DIVISIONの間では、どれくらいのやり取りがあったのでしょうか?

橋本:毎日レベルでやってる時期もありましたね。

佐橋:初期段階ではオフラインレビューのような形でセッションを用意するなどしていました。実際の試作品ができてからお借りして、気になったことをフィードバックしていきました。

――今年3月に行われた『VALORANT』の国際大会「VCT 2023: LOCK//IN São Paulo」では、Laz選手・crow選手が当時まだ未発表のZENAIMをTwitterに投稿して「あの謎のキーボードは一体なんだ!」と話題を呼んでいました。プロモーション的なねらいはあったのでしょうか。

佐橋:あれは結果的にそうなりましたね。試合の配信などで映ることは承知していましたが、開催前に選手たちに負担をかけたくないため、特に掲載の要望を出していたわけではありません。ですが、選手たちのマネージャーから「ツイートした」と事後報告がありました。(笑)

Laz選手が大会前に投稿したツイート。当日はまだ東海理化がゲーミングデバイスを手掛けるとは誰も予想できなかった。

――そうだったんですね(笑)。選手たちの意思ということですか。

佐橋:選手たちが気に入っていて、できる限りの協力したいという意思によるツイートでしたね。

――結果的にめちゃめちゃ反響ありましたね。

二之夕:そう聞いています。当時はまだ弊社のものであると明かしていなかったので、今日の発表がとても待ち遠しかったです(笑)

――東海理化がZETA DIVISIONのスポンサーになったのは2022年2月でした。どのような縁があったんでしょうか。

佐橋:最初の繋がりは東海理化さんから「少しお話させてくれませんか」という問い合わせからでした。

――ZETA DIVISIONとしてデバイスを手掛けたいという気持ちは元々あったのでしょうか。

佐橋:作りたい・手掛けたいという気持ちはそこまでありませんでしたね。我々としてはゲーマーの皆さんに新たな価値を提案することが企業理念のひとつであり、その方法としてデバイスがあっても良いと感じ、共同開発を決定しました。

――デバイスを共同開発すると聞いたときのZETA DIVISIONメンバーの反応などはいかがでしたか。

佐橋:各マネージャーを通じてなので実際の反応はわかりかねますが、そこまで驚いてはいなかった印象です。

発表会に登壇した「ZETA DIVISION」鈴木ノリアキさん

――先ほどのセッションでは鈴木ノリアキさんが「Lazモデル」とまでお話していました。Lazさんのフィードバックがやはり多かったのですか。

佐橋:Lazにフォーカスすることは考えていませんが、総合的なフィードバックの量ではそうかもしれません。本人を知っている方ならわかると思いますが、彼はこだわりが強いタイプの人間で、「スポンサーだから」という理由でデバイスを選ぶようなことはしません。そういう意味でたくさんのフィードバックを出した結果、Laz好みの仕上がりにはなってるんじゃないかと思います。

――デバイスメーカーをスポンサーに持つことによって、選手たちがそのデバイスを使わなければならないのか、などと思ってしまうのですが、チームとしてどのように考えているのでしょうか。

佐橋:弊社として、選手に対してデバイスを縛ることはしたくないと思っています。僕自身もプレイヤーだったのでその思いが強くありますし、弊社の人間はほとんどがゲーマーなのでその感覚を理解しています。今回のスポンサードに関しても、事前に「スポンサーになっていただいた場合でも必ずしも全員使用することはお約束できません」と話していました。

――開発側としてはそれに異議はなかったんでしょうか。

橋本:願わくば使っていただきたいですが、良いモノを作れば使っていただけると思っています。

二之夕:我々にとって未知の領域へのチャレンジなので、その当初から「必ず使ってくれ」なんて言える立場にはないと思っています。プロゴルファーでもスポンサーのキャップを被っているけど使っているクラブは別メーカーのもの、なんてのもザラにありますから、そこは理解しています。選んで使っていただけるようモノを作っていくのが我々の役割ですので、そこを強制するようなことはしません。

――あまりゲームメディアに露出する機会もないかと思います。最後の二之夕社長から読者にメッセージを頂けますか。

二之夕:我々の技術で作ったものがゲームの世界にいる皆さんに通用するのかどうか、僕らはいま試そうとしている段階です。参入できたといって喜んでいる場合ではなく、ここからライバルとの競争がはじまっていきます。新参者として、ユーザーを唸らせることができる良い製品をZETAさんと一緒に作っていきたいと思います。是非応援してください。

――ありがとうございました。発売を楽しみにしています。


ZETA DIVISIONの持つプレイヤーのフィードバックと東海理化の持つ技術が結びついて完成した「ZENAIM KEYBOARD」。5月16日(火)20時からの初回発売分は完売となってしまったので、気になる方は再販の続報を待ちましょう。

《Okano》
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東京在住ゲームメディアライター。プレイレポート・レビュー・コラム・イベント取材・インタビューなどを中心に、コンソールゲーム・PCゲーム・eスポーツについて書きます。好きなモノは『MGS2』と『BF3』と「Official髭男dism」。嫌いなものは湿気とマッチングアプリ。

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