eスポーツ前夜から、伝説のRTA走者まで…秋の夜長に読みたい「ゲーム文化を扱った小説」5選

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eスポーツ前夜から、伝説のRTA走者まで…秋の夜長に読みたい「ゲーム文化を扱った小説」5選

墓参りを人任せにしたくなるほどの殺人的な暑さも大人しくなり、すっかり秋めいて参りました。窓辺でゆっくりとRPGでも遊びたいところですが、たまには読書などいかがでしょうか。

本記事ではハードコアゲーマーでも楽しめるような、ゲームやその周辺のカルチャーに対して真摯に向き合った珠玉の小説を5冊紹介したいと思います。eスポーツ前夜に行われていた熱狂の戦いから、世界で唯一だと思われるRTAを取り扱った物語まで、めくるめくゲーム小説の世界をどうぞご堪能ください。「MMORPGっぽい世界で無双するのもいいが、もうちょっと違うのが読みたいんだぜ!」という人もきっと満足できるでしょう!


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まず一冊目はSWERY(末永秀考)著「ディア・アンビバレンス~口髭と〈魔女〉と吊られた遺体」(TH Literature Series)。

本作は『レッド・シーズ・プロファイル』『The MISSING -J.J.マクフィールドと追憶島-』などで知られるカルト的ゲームクリエイター、SWERYが初めて手掛けた長編小説。

肝心の内容はというと、これまたSWERYの十八番とも言えるものです。イングランドの片田舎で起きた凄惨な殺人事件を、ちょっと癖のある美女の刑事エミリーと、可愛らしい口髭がお似合いの小さな紳士ポコが解決します。SWERYさん、欧米のジメッとした田舎町のミステリーが好き過ぎますね。

しかしながら、CEROやESRBの審査が届かないフィールドに解き放たれたSWERYはもう止まりません。かなりエグいバイオレンス&アダルト表現が見られるので、氏の作品のそういう部分が好きな人はマストバイと言っていい内容になっております。

ミステリー部分も納得感のあるオチで非常にグッド。非小説家の処女作とは思えないくらいの完成度です。SWERYファンでなくとも一見の価値のある作品と言えるでしょう。須田剛一とのコラボレーションである『ホテル・バルセロナ』も非常に楽しみですが、それまでに本作を読んでワクワクを高めておきませんか?


ナウ・ローディング (光文社文庫)
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二冊目は詠坂雄二著「ナウ・ローディング」(光文社文庫)。

本作は同氏の著書である「インサート・コイン(ズ)」の続編なのですが、特筆すべきは、二冊ともゲームライターが主役である小説という点です。筆者もこれ以外にそんな本は読んだことありません。

内容は、ゲームライター兼専門学校講師である主人公の柵馬が、日常の謎を解決していくといういわゆる連作短編型コージーミステリーなのですが、出てくる謎のどれもがゲームやゲーム文化にまつわるものとなっています。

前作の「インサート・コイン(ズ)では『ぷよぷよ』や『ドラゴンクエスト』といったメジャータイトルばかり出てくるのですが、『ナウ・ローディング』ではもっとマニアックになっており「すれちがい通信」や「RTA」などといったものが主題となっています。

特に『ドラゴンクエスト3』のRTAが登場する『悟りの書をめくっても』は、箱庭育ちのお嬢様が自分のやりたいことを目指すキャッチ―なテーマでありながら、初期のRTA文化を注意深く掘り下げた短編となっております。

行間から「あ、これはゲーマーが書いてるな」といった感じがぷぅーんと香ってきます。僕らのリアルな青春時代が凝縮された一冊なので、是非ともチェックしてみてください。


手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ (早川書房)
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三冊目は藤田祥平「手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ」(早川書房)。

本作は小説家にしてゲームライターである藤田祥平による自伝小説です。ゼロ年代の日本で、ゲームに塗れた学生生活を送っていた人にブッ刺さる内容となっております。

91年生まれの藤田は、無数のゲームや文芸に囲まれつつも、鬱屈とした学生時代を送っていました。高校時代には『Wolfenstein: Enemy Territory』で時間を溶かし、国内コミュニティを率いるほどになりましたが、実生活は悲惨なもので、そのギャップに目を瞑っています。

以降も、母親の自殺や、大学での学び、『EVE Online』との出会いなど、彼の人生がワンシーンずつ克明に描かれ、一介のゲーム好きが物書きになっていく過程をじっくりと追いかけていくことができます。

エンタメとしてゲームを捉えるフィクションは多いですが、ゲーマーという人種が文芸の枠の中でどういう表現をするのかという視点は珍しいかと思います。ゲームと共にもがき続ける一人の男を、ぜひ刮目して見てください。



四冊目はケン・リュウ他著「スタートボタンを押してください」(創元SF文庫)。

こちらは桜坂弘やケン・リュウ、アンディー・ウィアーといった現役のSF作家たちによるビデオゲームを題材にしたアンソロジーです。

詠坂雄二が実在のゲームIPに注目してミステリーを作ったのに対し、こちらは架空のゲームを考えて、それが社会にどう影響を与えるかというまさにSF的なアプローチで書かれているのが注目ポイントでしょう。

筆者が特に好きなのは「1アップ」という短編です。ネットゲーム友達が亡くなり、彼のために数人で葬式に行ってあげると、彼の部屋から妙な自作ゲームが出てくる……というお話で、コロナ以降さらに加速したオンライン上の友達という概念について鋭い角度で切り込んでいます。「会ったこともない友達のためにどこまでしてあげられるか?」というトピックは、今だからこそリアルな問題として差し迫っており、現代にこそ読まれて欲しい作品です。

全体を通して見ると「ゲームの中に出てくるのが美男美女ばかり」「同じFPSをやっていても夫婦で感動するポイントが違う」など、ゲームについて適切な距離感を置きながらも、ゲーム文化の内側にどっぷり浸かっている人からはなかなか出てこない視点が盛り込まれているのが、今作の面白いところです。

一流のSF作家たちはゲームをどう捉えているのか? チェックしてみてください。

最後はナカガワヒロユキ著・大塚ギチ原案「TOKYOHEAD -NONFIX-」(INH)。

まだeスポーツという言葉がこの世になかった90年代……ゲームセンターの一角で、凄まじい熱気を誇るゲームがありました。それが『バーチャファイター』。この書籍は、そんなバーチャファイターに人生を賭けた「鉄人たち」を追いかけたルポルタージュ本になります。

元となる「TOKYOHEAD」を執筆した大塚ギチは残念ながら2019年に亡くなられ、長く廃刊していた書籍を、ゲーセンミカドと大塚ギチの盟友であった作家の海猫沢めろん(ナカガワヒロユキ)がタッグを組んで復刊することになり、それに合わせて加筆修正や現役プロゲーマーへのインタビューなどを加えたのが今作になります。

お金にも社会的地位にもならない格ゲーに文字通り人生のすべてを費やし、仲間内での名誉のために鎬を削り合う姿は、壮絶としか言いようがありません。ゲーマーともオタクともヤンキーとも違う存在感を放つ彼らを、大塚ギチはケレン味たっぷりの文章で書き記しており、そのドライブ感とポエジーにノックアウトされてしまいます。

格ゲーのイロハがわからなくとも、ひとつのコミュニティが生まれて消えていくまでの美しい流れを楽しめるので、ライトゲーマーからハードコアゲーマーまで誰にでもオススメできる一冊です。限定販売ということもあるので、もしも通販で手に入らなかったら長い目で見て根気よく探しましょう……!


以上、秋の夜長に読みたいゲーム文化を扱った小説5選でした。今晩だけは、ゲームの方はオート周回にして、ページをめくってみませんか?


ウィッチャーⅠ エルフの血脈 (ハヤカワ文庫FT)
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