「日本におけるeスポーツの観念をアップデートしていきたい」…合同会社ライアットゲームズの社長/CEOが語る“トレンドの変化”とこれから

ライアットゲームズの日本法人の社長/CEOを務める藤本恭史氏へインタビューを実施。Riot Games ONEの手応えや、今後の展望を伺いました。

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eスポーツシーンのモンスタータイトルと言える『VALORANT』や『リーグ・オブ・レジェンド』の開発・パブリッシングを手掛けるライアットゲームズ。こと近年は、日本において『VALORANT』の存在感が非常に大きく、2022年4月には国内チームのZETA DIVISIONが、世界大会で第三位まで上り詰めたり、「CRカップ」をはじめとするコミュニティ大会が盛んに催されたりなど、凄まじいばかりの盛り上がりをみせています。

そのムーヴメントはオフラインに波及。2022年6月には、さいたまスーパーアリーナで行われた国内大会は2日間延べ26,000人を動員し、ほかにも「RAGE VALORANT」を筆頭にプロプレイヤーやストリーマーを誘致したイベントが大型会場で盛況を収めるなど、コミュニティを中心に着実な成長を続けています。

そして、2022年末にはライアットゲームズが主催となって、オンライン・オフライン統合イベント「Riot Games ONE」を実施。約二ヶ月に及ぶオンラインイベントの末、フィナーレとなるコンテンツは、横浜アリーナで大観衆のなか執り行われました。そこで発表されたのが、『VALORANT』の国際大会「Masters Tokyo」の開催です。世界の名だたるプロゲーミングチームが2023年6月に日本へと集結し、世界一の座を争います。

そんなビッグイベントが間もなくというタイミングのなか、2023年3月にインテックス大阪で行われた「VALORANT Challengers Japan 2023 Split 1-Playoff Finals」に合わせ、ライアットゲームズの日本法人社長/CEO・藤本恭史氏にインタビューを実施。Riot Games ONEなど昨年の試みに対しての手応えや、野心的とも言える今後の展望について伺いました。

――本日はよろしくお願いします。まず今回のオフライン大会の印象はいかがでしょうか?

藤本恭史氏(以下、敬称略):国内大会の決勝で、これだけの盛り上がりをいただけているのは大変嬉しいです。選手の皆さんのパフォーマンスも素晴らしく、昨日(*1)は「いつまで続くのだろう」とハラハラしていました。本日も1マップ目から接戦で、ファンの方々の熱気も伝わってきます。国内大会でこれだけ素晴らしい熱狂を創り上げているのは日本だけなんじゃないかと、正直誇らしく思うほどです。

(*1)イベント初日の「SCARZ」対「FENNEL」は、5マップまでもつれる大接戦となった。本インタビューはGrandFinal(Day2)のMAP2終了後に実施。

それと“大阪開催”というのが、東京地域以外では初の試みとなります。他社様には実施経験があるところもいらっしゃるかと思いますが、eスポーツでここまでの規模感はなかなか無いはずです。そういう点では、ちゃんと“地方開催の意義”というものを作れるのかは大きなチャレンジでした。

昨日も会場へ向かう道中でTwitterのタイムラインを眺めていたのですが、東京から参加してくださる方々のほかに、地元関西圏の方々が声をかけあっているような投稿も見受けられ、ホッとひと安心しましたね。そういう熱量が集まって、この会場の盛り上がりが作り出されていることを考えると、本当に自信にも繋がります。

――地元の方に来てもらうことが、地方開催で大切なポイントのひとつなんですね。それにしても国内eスポーツイベントは、数年前と比べて様変わりを遂げました。

藤本:私たちは去年から、VCT関連に留まらない「Riot Games ONE」などのエンターテインメント性が高いオフラインイベント作りに取り組んでいますが、それらもひとつの“eスポーツ”として括ったとき、去年から今年にかけてとても大きなトレンドの変化が起きているように感じています。

――トレンドの変化……ですか?

藤本:流行語大賞にも選出された2018年時点の「eスポーツ」は、多くの人にとって「ゲーム大会」を意味していたと思います。それがプロレベルかアマチュアレベルかを問わず、メディアやユーザーはそう捉えていた傾向にありました。そんななかで「eスポーツ」が主に誰視点から語られるものだったかというと、あくまで大会に出場している選手(プロプレイヤー)でしかなかったと思うんです。

それはつまり観客からの視点……エキサイトメントや視聴体験があまり無かったとも言えます。フィジカルスポーツには観客動員数や視聴率などのさまざまな指標がありますが、当時のeスポーツシーンには「そういうものを求めるべきではない」という風潮がなんとなくあって、あくまで選手による“どうゲームプレイをスポーツのように魅せるのか”という視点のみがある状態でした。

それに対して、いまの「eスポーツ」は、Crazy RaccoonさんもFENNELさんも素晴らしいテクニックと知識を持っている選手が揃っていると同時に、プラスアルファで会場まで駆け付けている、またはオンライン視聴をされているファンの皆さんが一緒になって形成しているものなんです。これは、昨年にオフラインイベントを初めて開催したときにも強く感じたことです。

例えば、2022年6月にさいたまスーパーアリーナにご来場いただいたファンの方々は、全員が“ゲーマー”というよりは“ゲームコミュニティの一員”だったと思います。男性も女性もそれぞれ着飾っていて、ダイバーシティがそこにありました。大げさに言うとカルチャーを形成していたと思います。

――より具体的に、ファンのどのようなところにカルチャーを感じたのでしょうか?

藤本:ひとつは“応援”です。それぞれがオリジナルのプラカードやうちわを持参されているなど、日本ならではのスタイルができています。そして今回の開場にあたっては、ちゃんと整列をしてくださいますし、昨年は「大声を出さないで」というアナウンスにしっかりと従ってくださいました。これは海外ではなかなか無いことです。我々が求めるルールに則りながら、Z世代の皆さんが新しい視聴体験、視聴文化を形作ってくれています。

これはプロの選手たちにとっても大きなことです。応援は力になりますし、さらには会場が一体となって創り上げていくこのようなものは、オフラインでしか成せない価値を持っていると思うんですよね。

それを私たちは、東京地域ではある程度積み重ねてきたので、今度は大阪へ舞台を移したときに“大阪っぽいものとはどういうものなのだろうか”と悩みました。つまり、大阪地域に住む人たちが単に観客として参加するのではなく「自分たちの大会なんだ」と思ってもらえるためにはどうすれば良いのか……まだ答えは出ていませんが、今後も地方でイベント開催するとなると常に出てくるテーマだと考えています。

プロ野球で例えるならば、大阪を拠点とする阪神タイガースには、独自の応援スタイルやコミュニティがありますよね。東京には読売ジャイアンツ・東京ヤクルトスワローズの、福岡には福岡ソフトバンクホークスのものがあり、さまざまな面でその地方ならではのチームとコミュニティの結びつきが見て取れます。そのように、どんどんと多様性が生み出されている……これこそが、今我々が迎えている大きな転換期のひとつだと捉えています。

2018年に言われていたような“広義のeスポーツ”よりも、ファンの皆さんが主役となって作っている“競技シーンとしてのeスポーツ”をもっと促進するような手助けをさせていただきたいですね。

◆我々の責任は“ハイエンドな競技シーンを作り上げること”

――そのように形成されつつあるカルチャーを、ライアットゲームズはどのように支援していくのでしょうか?

藤本:私たちに求められていることは、いかにハイエンドなプロの競技シーンを作り上げるかだと思っています。それらは国内最高峰のエンターテインメントに繋がり、世界における日本の存在感にまで繋がっていきます。

『VALORANT』に関しては、国際大会でも日本からの視聴者数がとても多い。アメリカやヨーロッパより多いときもあります。『VALORANT』のeスポーツシーンを作ってきたのは日本のファンだと自信を持っても良いと思います。

eスポーツは我々のものだと言うつもりはありませんが、eスポーツで日本が主役になれるようになってきたんです。コンテンツを盛り上げるのはファンの皆さんだとして、世界へと繋がる道筋を作るのはパブリッシャーの責任です。そして、ファン獲得のためブランド価値を高めていけるかはチームの力でしょう。そんな三位一体の関係を築いていかねばならないフェーズになってきています。

◆てんてこ舞いだった「Riot Games ONE」

――振り返っていただく形になりますが、昨年の「Riot Games ONE」の手応えはいかがでしたか?

藤本:オンラインで2ヶ月、オフラインで2日間の開催期間。しかもストリーマーの方々によるエンターテインメント要素が強いコンテンツと、海外のプロチームを招いた競技性の高いコンテンツを一緒に作りあげるということで大変でしたが、私たちとしてはとにかく、見てくださる方にいかに満足していただけるかを最優先に取り組みました。

その観点で言えば、最後の「Masters Tokyo」の発表をはじめ、たくさんのサプライズをご提供できましたし、そのようなイベント作りが初めてだった私たちがお届けできる最大限をお届けできたかなと思います。それは視聴者数や横浜アリーナへの観客動員数にも反映できて満足していますね。

次があるかはまだ決まっていませんので、ファンの皆さんから求める声をどれだけいただけるかにかかっているとも言えます。もちろん、Challengers Japan Split 2やMasters Tokyoも控えていますし、もっと『VALORANT』の世界を楽しんでいただけるよう、引き続きさまざまな形でコンテンツは提供してまいります。

――初めての試みとして、さぞ苦労もあったろうと思います。

藤本:ストリーマーや選手の皆さんなど、80人近くにご出演いただきましたから(笑)。スケジュールの確保に加えて、プログラムの組み方などに本当に苦慮しました。横浜アリーナという大きな会場で実現できたのも、RAGEさんをはじめ、各方面からサポートをいただけたおかげです。それと国際大会を日本でやったことがないなか、世界の名だたるプロチームをご招待したので、お作法や国関係の手続きなど、社内ではてんてこ舞いでした(笑)

――その苦労で得たものは、きっと「Masters Tokyo」へ繋がっていくと思います。

藤本:私たちもいちファンとして楽しみにしつつ、やらなくてはならないことがたくさんあります。

◆ライアットゲームズが変えるeスポーツの考え方

――競技シーンとして、今年最初のシーズンが終わりに差し掛かりますが、今後はどのような施策を打ち出していくのでしょうか?

藤本:本日のChallengers Japanの決勝で生み出された熱狂は、モメンタムとしてMasters Tokyoへ続いていくと思います。それを含め、これから始まるインターナショナルリーグやChampions、さらには『リーグ・オブ・レジェンド』の大会などを通じて、2018年から続いてきた日本のeスポーツをアップデートしたいと考えています。

――eスポーツ2.0みたいなことですか?

まさにそうですね。私たちが手掛ける最高峰(ハイエンド)のシーンがあり、そこにはたくさんのファンが付いている……他のプロスポーツと比較しても、世界における日本の存在感が高く、応援スタイルなど日本独自のものが広がっていることを発信していくことで、日本におけるeスポーツの観念を変えていきたいと、野心的に思っています。Masters Tokyoを筆頭に、日本国内でのマイルストーンを積み重ねてきた弊社の強みを活かし、日本と世界のeスポーツという言葉の意味のギャップを埋めていきたいと考えています。

そのためにも「eスポーツってこういうものなんだ」というのを伝えていかねばならないのが今年です。『VALORANT』や『リーグ・オブ・レジェンド』といった大切なプロダクトを活用しながら、今後もファンの方々に応援していただけるライアットゲームズであり続けられるよう、これからも頑張ってまいります。


日本におけるeスポーツの観念を変えていきたいと語るライアットゲームズ。既に6月にはMasters Tokyoのほか、国内大会の決勝戦が大阪でオフライン開催されることが決定しています。

3月末からはインターナショナルリーグも開始し、より一層試合数も増えていく『VALORANT』の競技シーンが、日本における「eスポーツ」という概念の代名詞となる日もそう遠くないのかもしれません。

《Okano》
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東京在住ゲームメディアライター。プレイレポート・レビュー・コラム・イベント取材・インタビューなどを中心に、コンソールゲーム・PCゲーム・eスポーツについて書きます。好きなモノは『MGS2』と『BF3』と「Official髭男dism」。嫌いなものは湿気とマッチングアプリ。

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